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長編小説『becase』 1
「あなたは突然、私の前から跡形もなく消えてしまった」
私を知っている彼は、ある日曜日の朝、煌々と照らす陽が部屋の温度を上げている最中に忽然と姿を消した。
私が目を覚ました二人分のベッドには、ただ私だけが取り残され、その余った半分のスペースに彼の温度を微かに感じる事ができた。彼のお気に入りだった紺色の湯呑みも、彼の愛用していたジッポも、彼を包み込んでいた衣服も全ていつもと変わらぬ場所に置かれたままで、彼だけが忽然と姿を消してしまったのだ。
目が覚めてそんな事を思う自分をとても不思議に感じていた。だって、私が目を覚ました時に彼がいない事なんて今までに何度あっただろうか。時にはコンビニまで煙草を買いに行っていたり、時にはどうせ勝てもしないパチンコを楽しみに出掛けていた。
もちろん、私が目を覚ました時に、キッチンで卵を焼いている彼の姿だって見た事あるけど、別に彼が家にいない事なんてなんら不思議な事ではないのに、その日、なぜだか私は彼が消えたと、直感的に感じていた。この家にはもう帰って来ないんだ、そう思って仕方なかったのだ。そう思わせた理由が何か、昨日、一昨日、それよりももっと前、私は彼との会話を思い出していた。