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長編小説『becase』 19
私はそのでんぱちという男性の言葉を無視し、体を元の体勢に戻した。カウンターの奥では無口な主人が私の頼んだ焼き魚定食を作っている。
「おうおう、いつもの彼氏はどうしたよ?」
でんぱちは私の後ろからそう問いかけてくる。ただでさえ傷心なのに、こんな老人に声を掛けられていちゃ、その傷が余計に深くなるばかりだ。私はまたその言葉を無視し、カウンターに置かれているメニューを見るふりをしていた。注文も済ませたし用もないメニューは酷くつまらない。
「おねーちゃん!」
やかましい、と思いながら私は後ろを振り返る。その清潔感のそぐわない顔にずんぐりと佇む大きく丸い目が私を見ていた。
「どうでもいいじゃないですか」
私が冷たくあしらうようにそう言うと
「はは!逃げられたか!」
とほとんど正解に近いような答えを返してくる。屈辱的、そう思っている自分にまた腹が立った。
「逃げられてないです。急にいなくなったから……理由なんて分からないんです」
「彼氏も嫌気がさしたんだろう?」
余計な事ばかり言う。どうせ何も知らないくせに、なんでこの人は私をそんなにも貶めるのだろう。純粋にそれが楽しいのか、人を貶めるそれがこの男性にとっては楽しくて仕方ないのだろうか。