落としたのはある風景の中で

『短編連載』そのソファ 最終回/全10回

 次はどんな家に住もうかなんて話をしながら、僕たちは今日もそのソファに身を預けているのだ。だけど考えてみれば、別にカナが僕に嘘を付いてまでソファを買う必要はなかったんじゃないか。貰って欲しいって言ってる、って僕に言えばよかったんじゃないか、そう思わずにはいられない。
「なんでカナは言わなかったの?」
「なにを?」
「いやだから、貰って欲しいって言われてるって言えばよかっただろ?」
「ああ……」
とカナは一度何かを考えるような素振りを見せてから、「ダイニングテーブルが欲しいとは思ってなかったのよ、その時は」と言うもんだから、僕は一つ大きな溜息を吐いた。

※短編集『落としたのはある風景の中で』より
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