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長編小説『because』 65

 ただ、それくらいの会話を交わしただけの時間だからものの数秒である事に間違いはないと思う。ウェイトレスの女性がグラスに水を注ぎ、私たち三人の座るテーブルに持ってくるまでの、本当に少しだけの時間を私はとても長く感じ、女性が「どうされますか?」と彼にメニューを渡すまで、意識がずっと遠くにあったように感じた。
「じゃあ、ミートソースで」
その人がそう言うと、私たちに向けたそれと同じ笑顔を女性はその人に返し、メニューを受け取り席を離れて行った。
「それで?」
両肘をテーブルに付き、身を乗り出してその人は彼に聞いた。
「いや、別に」
そう、簡単にあしらう彼が私の隣にいて、この二人の関係性を探ろうと必死になっていた。みてくれは仲の良い友達には見えない、でも、長く時間を共有した兄弟のようにも見えたりした。その中間的な部分、私は勝手にこの二人をその位置に決めつけていた。
「なんだよ、なにか用があったんじゃないのか?」
「いや、特になにかあった訳じゃないんだ」
彼がそう返すと、その人の視線が彼から私へ移った。自然に流れたその人の視線に、私はどう返していいのか分からずに、その人の目をただ真っ直ぐに見続ける事しかできない。数秒、その人と私が見つめ合った後、その人は彼に視線を戻し
「ふーん」
と思いっきり何かを含んだ物言いをした。それに対して彼は何も言わず、お皿に残っていたチーズの最後の一欠けを口へと運んだ。

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