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長編小説『because』 73
「ここか?」
とでんぱちが言ったので、私は「ここよ」と答えた。
その人がこのマンションに住んでいる事を私はなぜ知っているのだろう。今更になってそんな疑問が浮かんだ。もう、当たり前のようにその人がこのマンションに住んでいるという事が私の頭の中には張り付いていて、そんな事疑いようもなかったのだけれど、ドアの前まで来て、ようやく不思議に思う。不思議に思うけど、やっぱりその人がこのマンション、このドアの向こう側に住んでいる事は間違いのない事だった。
ここに来るのは初めてだし、このマンションの敷地内に足を踏み入れたのも初めてだった。昔、彼に聞いたのかもしれない。でも部屋番号まで聞いただろうか。しかも私は部屋番号の数字を頼りにこのドアの前に来たというよりも、頭が自然に体を十二階へと運び、頭が自然に体をこのドアの前で立ち止まらせた。そんな感じだった。ずっと前から知っているような、体に染み付いた記憶に従うように、私はその人の住むここまで来たのだ。
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