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長編小説『becase』 27

「何?内緒?」

私は彼を茶化すように聞いた。ふざけて聞いている風を装ってはいるけれど、内心では本気で聞きたいと思っている。

「いや、別に大したとこじゃないから」

そう言って、言葉を濁すばかりだった。もちろん、もっと追求してもいいし、本当に大した所でなければもう一押しで彼は行っていた場所を言うかもしれない。でも、私にはそれができなかった。私は確かに知りたいと思っているはずなのに、結局最後に勝るのは心ではなく頭なのだ。

「……そう」
と少し寂しげに言って、話を終わらせた。あえて、寂しさを装った。その寂しさに彼が気付いた事にも私は気付いた。でも彼は私の寂しさに気付いたにも関わらず、その場所を言う事はなかった。

「お茶飲む?」
そう聞くと「飲もうかな」とソファに座っている彼は、自分の携帯電話をいじりながら応えた。

 食器棚から湯呑みを二つ取り出し、それを台所に並べた。そう言えば、ここに住み始める時に二人で買った湯呑みだった事を思い出した。紺色をしたそれと淡い緑をしたそれだった。紺色が彼で淡い緑が私。大きさは全く一緒のその湯呑みを、私たちは揃って買ったのだ。「これ買おう」と彼が突然言わなければ、この湯呑みを買う事なんて、この先私が何年生きようがなかったんじゃないかって思う。

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