長編小説『becase』 36
私は彼と出会ったときの事を思い出すのが好きじゃない。彼との出会い自体はもちろん素敵なものであって、こうして今突然消えてしまった彼を必死になって探している自分もいる。でも、彼との一番最初の出会いは良いものじゃなかった。良いものではないというか、私が初めて持った彼に対する印象が異常なまでに悪いものなのだ。
当時、今から五年前程になろうか。その時に私が勤めていた印刷会社で、私はエレベーターを待っていた。小さな会社ではあるが、縦に長い建物の作りのせいでそこに一台しかないエレベーターはいつだって私を待たせていた。一階からそのエレベーターのボタンを押した時、その箱は最上階の七階にいる事を示しており、一階に来るまでに六階、四階、三階、二階に止まり、一階に着いた時には、その箱からたくさんの人が吐き出された。時間にしてみれば大した事じゃなかったのかもしれないけど、そのエレベーターを待っている時間というのはとても長く感じられたし、とても無駄な時間のように感じられるのが不思議だ。
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