『短編』始まりの陽 第3回 /全5回
変わった自覚なんてない。変わったと言われてもイマイチ納得出来ない。だけど周りからみればきっと私は変わってしまったんだと思う。悪いことじゃない、そう思うけど、昔の自分にもう会えないのかと思うとなんだか少し寂しい。戻りたいなんて思わない。
私は今の生活が好きだし、そりゃ、大変なこともたくさんあるけど充実はしているし何より自分が幸せだと感じられる。今までただなんとなくずっと前を見て歩いてきて、そんなことを言われるまでもずっとそうだった。だけど、そう言われてふと後ろを見る機会が与えられた。昔、私がもうなくしてしまった過去の自分を、今の自分がぼーっと眺める時間。ぼんやりと眺めているその時間は、なんだか少しだけ楽しい。
「モーニングセットでお願いします」
いつからか、朝ここのファミレスに来て朝食を食べるのが日課になった。まだ夫も子供もスヤスヤと寝ているこの時間帯に一人でファミレスで朝食を摂る。一日の中で唯一たった一人になれる時間だった。
……やっぱり、それなりに疲れるよね。常に子供に目を向け、夫に目を向け、自分の時間なんてこれっぽっちもない。そんな生活の中にある一時の息抜きみたいな時間。だから私はこの時間が好き。毎日朝の三十分という限られた時間だけど、たったそれだけの時間で私は今日も頑張れる。夫が仕事に集中出来ないだろうと思ってここを勧めたのも、私がここに通っている習慣があったから。でもたぶん、夫は私が毎日ここに来ていることは知らないと思う。
早朝四時半、店内にはほとんどお客さんがいない。男女の一組と、まだ若い子たちのグループが一組。そのグループのうち二人は寝てしまっているのか、机に蹲(うずくま)っていた。人はいるのに、ほとんど静かだった。勝手な予想だけど二組とも夜からいるような感じがするし、もうエネルギーもそんなに残っていないのかもしれない。話してはいるようだけど、それこそひそひそと話すような静かな会話だった。一度リセットされる朝が、次第にやってくる。そんな中でみんな新しい一日の始まりを噛み締めているようにも見えた。
*********************
アマゾンKindleにて各種電子書籍を販売しています。https://furumachi.link/kindle/
その他短編小説はこちら↓
■古びた町の本屋さん
https://furumachi.link