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長編小説『because』 74
冷静になってみれば、疑問はいくつも浮かんできそうなものだけど、私はそれらを特に気にしなかった。気にしない事も大きな疑問の一つであるけれど、疑問を疑問とも思わなかったのだ。ただこの時頭の中に唯一あった疑問と言えば、その人はなぜこんなに豪華なマンションに住んでいるのだろうかという事、その人に対する金銭的な疑問だけだった。
そういえば私はその人がどんな仕事をしていたのか聞いた事がない。この家を知っているのが当然であるかのように、その人の仕事を知らない事が当然であるように思えた。どれほど追求してみても、きっと一生その人の仕事がどんなものであるのかを私は知る事ができないような気がする。それが自然であるべきなのだと誰かに言われている感覚だった。
「押すぞ?」
でんぱちが人差し指を立て、ドアの前に取り付けられたインターホンを今にも指そうとしている。少し躊躇しながらも、でんぱちの指はボタンに触れ、インターホンから小さな音が洩れた。
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