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映画感想『ミッドサマー』

『MidSommar』2019年
アリ・アスター 監督
きっかけ:美に溺れたくて
見た場所:TOHOシネマズ六本木ヒルズ

ホラー映画は得意じゃないというかむしろ苦手で避けてきたのに、最近なぜか修行のように手を出している。

本作もホラー修行の一環ではあるけれど、どちらかというとアリ・アスター監督の前作『ヘレディタリー/継承』が良かったので、同じ監督の新作を見たいという要素が強かった。
『ヘレディタリー/継承』は確かに怖いしグロい描写もちょこっとあるのだが、それよりも美術やカメラワークの美しさに目を奪われた。

『ミッドサマー』観賞直後も、前作同様の美しさの快楽に魅了されていたのだけど、美へのこだわりの濃度が強烈に増しており、なんだかすさまじいものに取り込まれた感覚だった。
観終わってからもじわじわと上がりっぱなしの自分の脈拍に気づいたのは、映画館を出てかなり時間が経ってからのことだ。

普通に美しいのを楽しんでいると、エグいことが起きる

この映画は、通常予告編よりもティザー予告の方が、作品の雰囲気が伝わってきて好みだ。美しい情景に溢れているのになんかチラッチラッとよろしくないモノが挿入されているのが見える。そこがいい。

明るい夏の日差しと空、植物の緑と花の色、白いリネンの民族衣装を着て踊るエルフのような風貌のひとたち。カラフルだけど、自然界に存在する色で構成された鮮やかなコントラストがとても目に心地いい。

映画本編も、美しいものが次々に登場する。美には「怖いほどの美しさ」と「自然にすんなり受け入れられる美しさ」の二種類があり、この映画の美しさは後者だ。
すんなりと美しさを受け入れているうちにホラー部分がひょいと顔を出してくるので、逃げられない怖さがある。怖いのが来るとわかっているのに、きれいだからもっと見たいという欲求に負けてどんどん見てしまう。
日常(=見慣れたもの、違和感のないもの)と非日常が交錯するところに驚きや好奇心が生まれるのだ。

例えばティム・バートン映画に登場する植物は毒々しさをあわせもった「意図された美しさ」なので、鑑賞者は世界観に身構えた上で不可思議なことに身を委ねられる。
しかし、『ミッド・サマー』は清々しい美しさを気持ちよく享受しているとエグいことが起きる。しかもエグさ結構強め。

この絶妙な緩急(というのか?)が、この映画を何度も見たくなる理由かもしれない。
ホラー映画好きの友人は「ずっと見てられる」と言っていた。詳細を聞きそびれたけど、多分このあたりのギャップも含まれているだろう。

↓VFXブレイクダウン動画(ややネタバレなので閲覧注意)。
そこまでVFX加工されてたのかと驚かされる。

パラジャーノフ作品の影響

観賞後にネットやパンフレットであれこれ検索していたら、なぜこの映画の美しさが私のツボなのかがわかった。
私が一番好きな映画監督、セルゲイ・パラジャーノフの影響があるらしい。作品数は少ないが、美術書のように美しくも謎めいた映画を撮った監督である。カスピ海沿岸あたりの、イスラム文化とキリスト教文化の交差点から生まれる美術はとても魅力的だ。

影響の具体例としては、『ミッドサマー』本編内に多数登場する壁画はパラジャーノフ作品に頻出するイコン絵画に通じるものがあるし、『ざくろの色』の花冠もちょっと影響あるんじゃないかなと思う。映像技法的なことはわからないけども、正面からの構図ももしかしたらそうかもしれない。

↓予告編

カップルで見ても大丈夫

アリ・アスター監督は『ミッドサマー』を自身の失恋経験を元ネタにして撮り、「これはホラーではなく失恋映画」と断言しているそうだ。

さらに「ミッドサマーをカップルで見ると別れる」という風評もあるが、そんなことは全くないのでご安心ください。
「これ見た程度で別れるならさっさと別れた方がお互いのためでしょ」と観賞後に同行者とうなずきあったぐらいだ。カップルが気まずくなる映画なんて、『ゴーン・ガール』とか他にもいっぱいある!

言うほど試金石な要素は無く、なんならすっきりするぐらいなので、ホラー好きなカップルにはおすすめの作品だ。

ぜひ映画館でご覧ください

折悪しく、閉鎖空間の映画館に行くことをおすすめしにくい状況だが、細部までこだわりぬかれた光と色の洪水は、ぜひ映画館の大きいスクリーンで体験いただきたい。
パンフレットも凝った特殊装丁で、モノとしての所有欲がそそられるすてきな仕上がり。且つコスト理由で再販しにくそうな作りなので、見つけたら即買いをおすすめする。

公開直後から評判がよく、かなり盛り上がっているのでまだまだ劇場上映は続きそうだ。
早くいろんなことが落ち着いて、堂々と映画館に行きやすい状況になることを祈ります。

おすすめリンク!
劇中にちりばめられたルーン文字をはじめとする細かすぎる要素については、漁火さんのnoteが素晴らしいので、ぜひご一読ください。


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