幼少期の不可思議な出来事


 まだ私がランドセルを背負えるようになる前に出会った不審な男性の話です。なのでかなり朧げな記憶です。もしかしたら夢の中の出来事なのかもしれません。以下の文章は実際にあったと仮定して書いた内容になります。

 きっかけは幼いお子さんをもつご家族に向けての注意喚起のツイートだった。「ご自分のお子さんが可愛いくてもお子さんのお顔は隠してあげてください」という内容だった。
 世の中には子どもが性欲の対象になる人間がいて、その中でも子どもに手を出す人間が大なり小なり存在し、一人でも多くの子どもがそのような人間の被害に遭う事がないようにする為のものだった。
 一連のツイートの不審な人間の一例に「公園で遊ぶ子ども達をひたすら見つめる男性」というものがあった。私にはこの一例と酷似した男性に遭遇したことがある。


 その時の話をしよう。ただし今から10余年も前の出来事なので多少事実と異なる点があるかもしれないが目を瞑っていただきたい。
 その日は幼稚園の集まりに参加して大きな公園で運動をする日だったと思う。参加した園児を保護者達が囲むように見守り時折り園児たちも保護者に手を振ったりしていた事は覚えている。その保護者達の中に一人だけどの子どもからも手を振られない男性がいた。
腕を組み微笑みながら園児たちに視線をやる、体格の良い男性だった。
 私がその男性に気を取られている間に行事は進行し、休憩時間となり園児たちは散り散りになって各々の保護者の元へ走っていった。当然私も母の元へ走っていった。しかし男性のことが気がかりだった。そしてこの園児たちが自分の保護者の側にいる状況はあの男性が誰の保護者なのかを確かめる絶好の機会だった。そして案の定男性の元には園児は居らず、近くにいた保護者達も男性のことは顔見知りでない様子だった。
 ここで不審や人間がいる事を親に相談出来たらよかったのだが私は好奇心旺盛な子どもだった。気になったことは自分で確かめないと落ち着かなくなるのだ。当時の私は彼の元へ向かった。
 軽く挨拶をすると私は彼に尋ねた。
「あなたは誰のお父さんなの?」
 すると彼はすぐ側を走っていた男の子を指差して「あの子のお父さんだよ」と答えた。 
 しかしその男の子は別の場所に母親がいることは確認済みだった。
「あの子のお母さんはあっちにいたよ?」
 男は戸惑った様子で真横を駆けていた先程とは別の男の子を捕まえてしゃがみ込み、私に目線を合わせて「この子のお父さんだよ」と答えた。当然のことながら男の子は困惑していた。そして男の子に耳打ちしたのもはっきりと聞こえた。
「そうって言え。」
と。男の子は黙って頷いた。
「でもこの子のお母さんは向こうにいるんだよ。なんでお父さんとお母さんが別々の場所にいるの?」
「お父さんならなんで『この子』って言うの?名前知ってるでしょ?」
 このような質問を私は男性にした筈だ。男性は園指定の運動着につけられたワッペンを見てから男の子の名前を答えた。だから私は「自分の子なのに(ワッペンを見ないと)名前わからないの?」
と聞いた筈だ。この辺りの事はあまり覚えていないが、とにかく男はこれらの問いに答えられず無言で男の子を解放した。
 解放された男の子は一目散に母親の元へ走り、離れた場所からではあったが母親の方もこちらの様子には気づいていたようだった。
 男の子を解放した後男は立ち上がり黙って私を見下ろしていた。口封じの方法を考えていたのかもしれない。腕を掴まれたら大声で叫ぼうと覚悟していた事は朧げながら覚えている。
 私と男の睨み合いは長時間続いたように感じた。沈黙を破ったのは男でも私でもなく私の母だった。
「すみませんご迷惑をおかけして!」
 このような内容の台詞を男に言った後に母は私を引っ張って元々いた辺りまで戻った。母には私が知らない人に話しかけて困らせているように見えたのだろう。こうして文字にしてみるとあながち間違いではない。記憶にはないがもしかしたら私にはそのような前科があったのかもしれない。
 母に引っ張られた後、私は母に何をしていたのか尋ねられた。その時に男がこちらを見ていた事はうっすらと覚えている。
 男の不審な点を母に説明している最中に休憩時間が終わってしまい私は保護者達に囲まれた広場に集まった。気がかりなのはあの男だ。振り返ると男はまだあの場所でこちらを見ていた。
 この後の記憶は少し抜けているのだが、ふと私が男がいた場所を見てみるともうそこには男の姿は無かった。

 これはかなり朧げな記憶なのだが私が最後に振り返って男がいる事を確認した時、男と同じぐらい体格の良い男性が男に声をかけていた。その男性は園児の誰かの保護者で、男を不審に思った母親達に何かを頼まれていたのを見たような気がする。
 とにかく私がわかる範囲では誘拐や傷害のような事態にならなくてよかった。ただ、途中で男に捕まえられて両の脇の下を掴まれていた男の子には怖い思いをさせてしまったと思う。男の子の後の人生に大きく影響していないと良いのだが。

 とにかく彼の心の傷が深いものでない事を切に祈っている。

 以上が私の出会った不審な男の話である。何かの参考になるかはかなり怪しいが不審な人間は確かに存在する事を知っていただけるきっかけになったら何よりだ。

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