バス停での話

 その当時私は自転車で通学していたのだが、止むを得ず公共交通機関での登下校を余儀なくされたとき学校から1番近いのはバスだった。
 私は一人でバスが来るのを待っていた。暖かくなってきたとは言っても長時間外にいると身体が冷える時期だったと思う。私の後ろに白髪の女性が並んだ。
 最寄のバスはいつも時刻表より分遅れて到着する。その日もバスは5分遅れてやって来た。ある意味予定通りやって来たバスに私と女性が乗り込み、運転手を含めても片手で足りる人数しか乗っていないバスは動き出した。
 女性はガラガラの車内でわざわざ二人がけの席に座った私の隣に座って来た。私は手に持っていたスマホを仕舞い、制服が邪魔にならないよう座り直した。何でこっちにきたんだ、と思いながら。私は人よりも自分のテリトリーに他人が入ることに耐性がないのだ。
 片手で足りる程しか人の居ないバスでわざわざ私の隣に座った女性は案の定私に話しかけて来た。
「このバス5分も遅れてきたわね。」
 話し声でも響く車内でこんな話をする彼女は分かってやっているのだろうか。一人でぼぅっとする時間を奪われた私は彼女の話し相手になることにした。相槌を打てば彼女はまた口を開いた。
「まだ寒いのに、風邪でもひいたらどうするのよね。」
「ここのバスは大体5分遅れてくるのでそれを想定して動く方がいいですよ。」
 食い下がる彼女に私は続けた。
「海外では10分以上遅れてきたりするのはザラみたいですし、5分で来てくれるのならいい方だと思いますよ。
 それに同じ道でも毎日状況は違いますから決まった時間に必ず来る方が難しいと思いますよ。」
 例えで出したのは電車の話だから少し的外れな例えかもしれないが、私がこう答えるのには理由があった。以前同じバス停で手押しのカバンを持った腰の曲がった女性がバスに乗る様子を見たのだ。
 その女性は歩道からバスまでを跨ぐことが出来ず、一度車道に降りてからよじ登るよにしてバスに乗ったのだ。一連の流れを見て私はバスに乗るのに一苦労する人がたくさんいることを知った。
 よく見かける例として、車椅子に乗っている人もバスに乗るのは一苦労だろう。バスに乗るのが大変な人は私が知らないだけでもっといるのだろう。
 つまり私は知識として知っているのではなく経験として知るきっかけがあったのだ。
 ポスターなどで車椅子に乗った人がバスに乗るのを運転手が手伝っているもよくみかけるが、ほかにどのような人がどのようにバスに乗るために四苦八苦しているのか想像力に乏しい私ではわからない。

 他にもバスが遅れてくる理由は考えられる。毎日横断歩道をゆっくり渡る人が通り道にいるとか、小学生の下校時間と被るとか。
 考えたらバスが遅れる理由はいくらでもあると思う。実際に先に上げた出来事が理由でバスが5分遅れてくるなら憤慨するひとも減るのでは無いだろうか。こういう時私は多くの人がもっと周囲に対して寛容になれば結果として暮らしやすい環境になるのではないかと思う。
 それはさて置きいっそのこと時刻表は5分遅れに作り直したらどうだろうかと思わなくもない。
 

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