協調性の罠
協調性が高い。
これは、ほめ言葉としての意味合いがありますね。
社会的な目標を達成したいときに、みんなで一丸になって取り組んだ方が
早く、確実に達成します。
なので、自分勝手な人よりも協調性があった方が良いと思われてきました。
でも、協調性が高いことは必ずしも良いことばかりではありません。
皮肉なことに、協調性が高い人が社会の秩序を壊してしまうことがあります。
最後通牒ゲーム
「最後通牒ゲーム」というゲームは、与えられたお金を二人で分配するというゲームですが、
ちょっとユニークなルールがあります。
それは、分配に納得いかなかったら拒否権が与えられて、
拒否された場合お金は全部没収されてしまうというルールです。
例えば、100万円を僕とあなたで分けるとします。
じゃんけんで勝った僕が金額を設定できるとします。
僕はがめついので95万円もらい、あなたに5万円を渡します。
ズルいな、と思ったら拒否しても構いませんが、拒否したら5万円すらパーになります。
京都大学、高橋英彦准教授が、このゲームを使った実験を行ったのですが、
結果、協調性の高い人ほど拒否権を発動させたそうです。
また最後通牒ゲームに似た「独裁者ゲーム」というゲームでの実験も行われました。、
これは、もらう方に拒否権がないというルールです。
例えば、僕が100万円持っていて、僕が分配できる金額を自由に選べます。
僕が95万円もらい、あなたに5万円しか渡さなかったとしても、
あなたは文句を言えない、というゲームですね。
このゲームをお人よしの人がやると、相手に多くお金を渡したり、半分ずつにしたりします。
でも、このゲームを続けて行い、相手があなたにあまり分け前をくれないと分かると、
お人よしだった人ほど、リベンジに走る傾向が高いそうです。
この二つのゲームを分析してみると、
協調性の高い人ほど、自分の利益よりも公平性を大事にし、相手の利益まで奪う。
お人よし=利他的な人ほど相手への見返りを要求しがち。
逆に、共感能力が低く協調性に欠けるサイコパスが、最後通牒ゲームをやった場合、
例え相手が99万円を奪い、1万円しか渡さなくても、決して拒否しません。
サイコパスは、自分の利益さえあれば不公平でもいいと考えるんです。
バッシング本能
近年ネットでの炎上が絶えません。
この炎上も、協調性の高さからはじまる場合が多くあります。
例えば、
新型コロナウイルス蔓延防止のため緊急事態宣言が出ましたが、
相変わらずパチンコ店に行列を作る人たちがいます。
そんな彼らに対して、許せない気持ちがわくのは、
自分たちが我慢してるのに、遊んでる人がいる、という不公平感にあります。
また、パチンコ店からクラスターが発生し、関係ない人たちにまでかかってしまうから、という正義心もあるでしょう。
どちらにしろ、この二つの意見に共通するのは協調性ですね。
「みんな我慢してるのに」という理由と「関係ない人にうつすかもしれない」という理由は、利他的なものなので。
(おもしろいのは、この時、自分に関係ない人を例にあげるケースが多いことですね。
ほとんどの人は、パチンコやってる人から直接自分にうつるケースじゃなくて、誰かを経由して自分に親しい人がかかるケースをイメージしてしまいます。
人は都合のいい解釈をしてしまうので、自分にはかからないことを前提にしてしまいがちです。
数あるバッシングを見ても、例に挙げられる人は、「自分」じゃなくて、
「近所のお年寄り」など抽象的な人物なんですよね)
不安な日本人
このように、協調性の高い人というのは、
公平性を重視するあまりバッシングに参加しやすい傾向があります。
そして、この協調性というのはセロトニントランスポーターに関連すると言われています。
セロトニンとは脳内で働く神経伝達物質のひとつで、精神を安定させる役割があります。
そして、このセロトニンの分泌量を調整しているのがセロトニントランスポーターなんですね。
協調性が高い人は、このセロトニントランスポーターが少ない傾向にあり、
やや精神の安定に欠けるところがあります。
逆に言うと、情緒不安定だからみんな一緒じゃないと気が済まないのかもしれません。
そして、日本人は世界的に見てもセロトニントランスポーターが少ないことが分かっています。
憧れの自己中
超人気漫画、「ワンピース」
主人公ルフィは、仲間思いですが、よく読むと超がつくほどの自己中。
みんなで敵をやっつけに行くときも、自分だけ先走って行ってしまうほどで
協調性の欠片もありません。
日本人はセロトニントランスポーターが少なく、協調性を重視する人が多いにも関わらず、
なぜ「ワンピース」のような物語が人気になったんでしょうか?
僕は、日本が協調性を重視しすぎる社会だったからこそ、その反動でワンピースが人気になったんだと思っています。
つまり、抑圧からの反動ですね。
さっきも書いた通り、協調性が高いと公平さを重視し、他人に厳しくなりがちです。
協調性の高さは同じ日本人でもバラツキがあるため、みんながみんなストイックな世界を求めてるわけじゃありません。
このように協調性の高い反面、それについていけない人も多いんです。
なので、ルフィのような破天荒さに憧れてしまうんでしょうね。
憧れの自由
ルフィへの憧れは、世界価値観調査という国際的なアンケート結果にも表れています。
世界価値観調査=World Values Survey(WVS)
これは、世界80ヵ国以上を対象に政治や教育、宗教、仕事、家族などについての価値観を調査したものです。
この調査によって導かれた日本人の価値観が、
「世界で一番世俗的=個人主義」ということです。
このマップは世界価値観調査の結果を
ミシガン大学のロナルド・イングルハートが図に興したものです。
図の縦軸は、
伝統的な価値観 対 世俗・合理的な価値観
下に行くほど伝統的な価値を重視していて、上に行くほど世俗主義的(=個人主義的)な価値を尊重している国です。
(世俗主義=個人は宗教的な権力からの独立すべきという考えなので、個人主義としました。つまり宗教や風習に従うのではなく、個人は事実や客観的根拠に基づいて自立すきという考えですね)
図の横軸は、
生存的価値観 対 自己表現的価値観
左に行くほど、物質的な豊かさに価値を置いていて、右に行くほど自己表現に価値を置いてる国になります。
つまり、左の国は物質的に貧しく、右の国は自己表現に価値が置かれるほど豊かな国ですね。
このマップから日本(Japan)を探すと、一番上でふわふわ浮いている位置にありますね。
つまり、日本は世界で一番世俗・合理的な価値観を持っているということ。
伝統をみんなで守っていこうという協調性からはるかに離れた価値観が強いということです。
この調査は社会の実態ではなく、人々がどんな価値を重視しているかというアンケートなので、
ある意味人々の欲望を表してると言えるでしょう。
日本の社会の実態は、昔の村社会的な伝統からは切り離されたとはいえ、
まだまだ年功序列や上意下達などの伝統的な価値観が強く残っています。
だからこそ、反動が大きく、そこから抜け出したい人が多くいるのでしょう。
不安はあるけど、冒険には憧れる。
日本人はそんな少年みたいな心を持った人たちなのかもしれないですね。
セロトニントランスポーターが少ない日本人は、精神に不安を抱えやすい。
でも、協調性を重視しすぎる社会はやはり息苦しいです。
僕はもっと、ルフィのように利己的にふるまってもいいと思っています。
そもそも遺伝子というのは利己的に作られていて、
それぞれが利己的にふるまうほど
社会の秩序が形成されていくようになっています。
(ちなみに資本主義の概念もそれぞれが利己的にふるまうほど
社会経済が安定するという考えからできています)
明治から昭和にかけて多くの日本人がブラジルに移民していった過去があります。
過酷な環境の中苦労が多かったそうですが、今になってみればそこで成功した人は意外と多いそうです。
冒険への好奇心と、不安から来るリスクヘッジの考えが功を奏したのかもしれないですね。
海外移住をしろとは言いませんが、
自分を押し殺す社会を捨てて、自分勝手に冒険する方が、ずっと日本人にあった生き方かもしれません。
割とネガティブな日本人ですが、
だからこそリスクヘッジを考えた、賢い冒険者になれるかもしれませんね。