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配達したり、貰ったり。

「お待たせいたしました!」
これが僕がお客さんに発する最初の言葉である。

僕は今、配達のアルバイトをしている。
これが結構楽しい。
出勤して、車に乗って、お客さんの元へ向かう。
1時間区切りで配達は行っており、担当の配達が終わり次第、店舗に戻るという仕組みだ。
この1時間という制限が多少の抑圧となり、身を引き締めながら業務を行うことができる。

「今日も頑張っていきましょう!」
朝礼の終了間際、全体に声をかけてみた。
「「・・・」」
特に誰からも返答はない。
うすら笑いだけが朝の冷たい空気に囁く。
いつも明るい店長も苦笑いだ。
ある意味僕の扱いを知っているという意味でいい職場なのである。

そんなことを気にする間もなく配達は始まる。
今日は個人宅の配達が多めだ。
ブォォォとエンジンがなり、四方八方を確認し出発する。
どんなことよりも安全確認が大事なのである。

お客様宅についてインターホンを鳴らす。
「こんにちは、お待たせいたしました!」
「あら、ご苦労様です。」
出てきたのは中年の女性。柔らかい口調から気品が溢れている。
こういう一言で救われる命あるよな〜と思いつつ、商品を渡し、会計を終わらせる。

そしてお客さんを目を見て、この言葉を伝える。
「ありがとうございました!またお願いします!」
最後まで大きな声で感謝を伝えるのが接客業のコツなのだ!!!
この言葉でもし会計までに失敗があっても大抵許してくれるゾイ!

半身だけ玄関に入っていた身体を回転させ、ドアを抜ける。
さて、次の配達はどこかなーと考えていたその時、後ろから声が聞こえてきた。
「おにいさーん!おにーさん!!」
振り向くとお客さんがこちらに手を振っている。
先ほどまでの声色とは違って、大衆的な大きな声に少し驚きつつもすぐに踵を返す。
何か不手際があったのだろうか・・・

再度玄関でお客さんに目線を向けると、、そこには、、笑顔!
YES!笑顔!なぜか高須クリニックが頭に浮かんだ。
「お兄さん、あんこ食べられる?」
「はい!」
食い気味で答える。
僕は和菓子系が大好きなのだ。勿論あんこも大好きである。
ちょっと待っててと言いながら室内に入っていく。
少し楽しみにしつつ待っていると、高島屋の袋に入った何かを渡してきた。
「はい、これ大判焼き」
最初言われても何かわからなかったが、中身を見ると私の知っている単語だと円盤焼きと呼ばれるものが入っていた。
しかも一つではなく、5、6個もだ。それがミスタードーナツの入れる箱のようなものに一つを抜かしてぎっしり入っていた。一つは勿論お客さんが食べたのだろう。
「え、いいんですか!?」
きっとその時の私の目の輝きは少年のよう。
「是非、持っていって!」
何故かその時お客さんが一際活き活きと、言葉を選ばず言えば若返ったように見えたのだ。

これは確かに私はモノを配達して、偶然何かを貰えただけのことかもしれない。
でも、もしかしたら、もしかしたらの話だが、
私がモノ以上の何かを渡すことができ、その結果、私が代金以上の何かを得られたのかもしれない。それは円盤焼き以上の価値のある何かを。
そのことを考えた時に、何か胸がふんわり温かく膨らむのを感じた。
まるであんこを包んだ円盤焼きのようにね。

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