「ホープ」第3話 #ジャンププラス原作大賞#連載部門
ウィンド「パン爺、そこもうちょっと右ね。あとネジは最後まで仮止めにしといて」
パン爺「ほいさ!」
ウィンドはモニター越しにパン爺に指示を出して船を修理していく。
その前で座ってるリリィ、カラー、ミュート、フレン。
そこへジニアがやって来た。
ジニア「おーい、カラー!ちょっと手伝って欲しいんだけど」
カラー「いいよー!なに?」
ジニア「ちょっと一緒に来てくれ」
リリィ「あ、あの。あたしも行こうか?」
リリィも恥ずかしそうに聞く。
ジニア「ああ、リリィは大丈夫だよ、ミュートたちを見てやってくれ」
リリィ「そう…分かった…」
リリィはどこか寂しそうだ。
ジニアはカラーを連れてどこかへ行ってしまった。
それを見ていたウィンド。
ウィンド「全く。ジニアのやつもちょっとはリリィの気持ち考えなさいよね」
リリィ「な、どういうことウィンドさん!?」
ウィンド「へへぇ。見てたら分かるわよ。長年生きた女の観察眼舐めんじゃないわよ?と、お客さんだ、パン爺あと頼んだよ」
ウィンドはモニター奥に消えていく。
リリィは顔を赤くしてる。
ミュート「なんだおめぇ、あいつのこと好きなんか?」
フレン「ちょっとミュート!そんな直接的な…」
リリィ「い、いや、それは、その…」
フレン「ほら困ってるじゃんか。」
戸惑うリリィ。
リリィ「うん。でも、ジニアはたぶんカラーの事が、、、」
そこに老女がやってきた。
老女「リリィ!フジ婆の想い鉢が花を咲かせたよ!」
リリィ「ハイドランジアさん!今行く!あ、そうだ2人もおいでよ」
ミュート「オモイバチ?なんだそれ?」
リリィ「見た方が早い!ほら行くよ」
リリィは2人の手を引いてハイドランジアの後を着いていく。
着いたのは広く区分けされた庭のような場所だった。
リリィ「ここが私の区画!」
リリィがとある一角まで連れてきた。
そこには鉢が沢山あった。
そのひとつに駆け寄るリリィ。
そこにはポピーの花が咲いていた。
リリィ「ポピーの花だ。フジ婆さんらしいね。ありがとうフジ婆さん。」
リリィが呟いた。
リリィ「これが想い鉢だよ。私達花の長命族は花を咲かせる力を持ってるのは知ってる?この鉢は送り主の命が絶える時、その最後の想いが宿って花を咲かせるの。」
フレン「へぇ。じゃあこの花はそのフジ婆さんって人の想いが宿った花ってこと?」
リリィ「そういうこと。私達はこの想い鉢を親しい間柄で送りあっておくのよ。ほらそこの鉢はカラーとジニアの鉢。」
ミュート「へぇ」
ハイドランジア「そしてこの鉢に咲いた花は弔いの丘に植え替えてあげるの。そうすることで死者の想いは弔われる。」
フレン「弔いの丘…」
ハイドランジア「あなた達がここに墜落した時に見かけたんじゃない?」
ミュート「ああ、あの花畑」
リリィ「そう。あの丘は私達にとってとても大切な場所なの。私達の先祖はみんなあの丘に眠っている。でもそんな丘をシャドウは…」
フレン「シャドウが、どうしたの?」
ハイドランジア「弔いの丘には想い鉢に咲いた沢山の花が集められる。その集められた想いは土に溶け込み豊かな土壌を形成するの。そんな土地で私達は食物を育てて生きていたんだけどね…」
リリィ「そんな食物をやつらはみかじめ料として毎月奪っていくの。対価として限られた太陽の光を貰ってね。」
ミュート「そんな、なんてひでぇ奴らだ…」
ハイドランジア「更に酷いのはね、やつらこの星に沢山あった弔いの丘を根こそぎ奪っていったのさ。」
フレン「弔いの丘ってここ以外にもあったの!?」
リリィ「そうよ!沢山あったの!惑星中に弔いの丘があってその周りに村ができていたの!でも今はただ1つここだけ…」
フレン「そんな、酷すぎる。何とかならないんですか?」
ハイドランジア「こんなへんぴな場所じゃモニコスの自治も届かないしねぇ…」
ミュート「モニコス?」
フレン「この銀河の平和を守る公安のことだよ。そっかこの辺はブロキュス外だから…」
ミュート「ブ、ブロキュス…?」
フレン「あぁ、ごめんごめん。モニコスは銀河を守るためにガーディアン部隊を率いて治安維持を行ってるんだけど、これだけ広い銀河だから維持できる地域も限られてきてね。そんなモニコスの自治が及んでいる地域の事をブロキュスって呼ぶんだ。」
リリィ「なにこの子、何にも知らないのね?」
フレン「まあ、色々あってね」
ハイドランジア「あ、それはそうと私はハイドランジア。リリィ達の孤児院の母をしてるの。よろしくね。」
ミュート「よろしく!」
フレン「よろしくお願いします」
リリィ「それじゃあ私この花を弔いの丘に持って行ってきます!」
ハイドランジア「ええ、行ってらっしゃい。弔いの丘にはシャドウの傭兵もいるから気をつけるのよ」
リリィ「はーい」
ミュート、フレンはリリィと弔いの丘に来た
ミュート「ひゃーすげぇ、一面花だらけだ!」
フレン「それもこんなにいろんな種類の花が咲いてるのは見たことが無いよ!」
リリィ「凄いでしょ」
リリィはどこか誇らしげだ
ミュート「ん?あそこにいるのは?」
丘の奥に銃を肩に提げた男たちが立っている。
リリィ「ああ、あれがシャドウの傭兵よ。このエリアから私たちが逃げ出さないように見張ってるの。あとこの丘の先に奴らの採掘場があってね。」
フレン「採掘場?」
リリィ「そう。言ったでしょ。弔いの丘の土はみんなの想いが溶け込んで養分を多分に含んでいるって。そんな土をやつら採掘して自分たちのためだけに使ってるのよ。」
フレン「そんな…許せない…」
リリィ「許せないけど私達は何も出来ないの。」
フジ婆さんの花を植え替えながらリリィは話す。
リリィ「私達が少しでも抵抗しようとしたら奴ら徹底的に潰しにくるの。この村が最後の村になってしまったのも先祖たちの抵抗の結果なの」
リリィは暗い顔をしている。
するとミュートがあることに気がつく。
ミュート「…おい、あれ」
突然丘の向こうから大きな重機が音を立てて向かってきた。
リリィ「え、待って!」
重機は柵を踏み潰して弔いの丘に入ってきた。
リリィ「辞めて!ここは私達の大切な丘なの!」
リリィが声を張り上げるが重機は止まらない。
そのまま大きなショベルで丘を掘削し始めた。
リリィは叫びながら重機へ駆け寄っていく。
ミュート「危ない!」
それを止めるミュート。
リリィ「離して!こんなの!ここが最後の丘なの!ねぇ!」
傭兵たちが銃を構えてこちらにやってくる。
傭兵「お前たち、これからここで掘削作業が始まる。早いとこ失せな」
リリィ「なんでこんな酷いことするの!ここは最後の丘なのよ!」
傭兵「全てはシャドウ様の指示だ。これまで掘削してきた丘の土もやがて養分を失う。よってこの丘の分も貰いに来たって訳さ」
リリィ「でも、そんなことしたら私達の生活が!」
傭兵「んなもん知ったこと無いさ。早くどいてな!」
リリィの訴えも虚しく掘削は続いていく。
リリィは村に向かって駆け出した。
フレン「あ、リリィ!」
村に着いたリリィ達。
リリィ「はぁ…はぁ…みんな!弔いの丘が!シャドウたちに侵略されてる!」
リリィの声に村人達が飛び出してきた。
「そんな、弔いの丘が」「もう終わりだ逃げよう」「何言ってる逃げたらダメだ」「じゃあどうしろと?」「そもそもどこに逃げるんだ。逃げ場所なんて…」「星を出るんだ!どこかに住む場所を探そう」
村人達の戸惑いの声が聞こえてくる。
そんな村人たちの声をかき消してカラーの声が響く。
カラー「戦いませんか!」
みんなの声が静まる。
カラー「あの…みんなで戦いませんか?その為にウィンドさんとも協力して武器を作ってきた訳だし。」
リリィ「カラー…」
ジニア「カラーの言う通りだ!俺達はこれまで散々苦しめられてきた。今こそ立ち上がる時ではないか?」
村人達が顔を合わせる。
徐々に賛同の声が上がっていく。
村人達「そうだそうだ!」「やってやる!」
ジニアとカラーは顔を合わせる。
ジニア「では、まずは武器の準備だ!ウィンドさんの工房に粗方のものは揃っている。みんな手分けして準備に向かってくれ」
リリィはジニアの勇姿に見とれていた。
工房では武器の準備が進んでいた。
英気を養う為に料理も振る舞われている。
リリィは仲良く話しているカラーとジニアを壁際から見つめていた。
リリィはすぐ隣のフレンに話しかける。
リリィ「お似合いでしょ?」
フレン「え!?いや、えっとまぁ、お似合いというかなんというか…」
突然の事で戸惑うフレン。
リリィ「ふふ。そんなに気を使わなくてもいいのよ」
フレン「いや…えへへ…」
リリィ「いいの。2人が幸せならそれで。」
フレン「…」
リリィ「きっと2人とも私の気持ちなんて全く知らないんだろうなぁ。もし知っちゃったらどんな顔するかな?」
リリィは無理に明るく振舞ってみせた。
フレン「…どう…なんだろうね」
リリィ「たぶん、カラーは純粋に応援してくれると思うな。あの子単純だからジニアの気持ちも知らないんだよきっと。それでもあんなにお似合いなんだもん。私の出る幕なんて無いよ…」
フレン「…ごめん…こんな時なんて声掛けていいか分かんなくて」
リリィ「いいのよ!気にしないで。さ、ご飯美味しいからいっぱい食べてね」
フレン「うん、ありがとう…」
フレンはどことなく気まずそうだ。
リリィ「あーあ、シャドウのいざこざも私の恋もホープ様が全部解決してくれたら良いのになぁ」
フレン「ホープ様ってあの伝説の?」
リリィ「そう。あの銀河を救ってくれるっていう伝説の。銀河を救えるくらいなんだから私の事も救ってくれたっていいじゃない?」
フレン「はは、そうだね。ほんと、嫌な事も全部全部救ってくれたらいいのに…」
そこにミュートがやってきた。
ミュート「なあ、そのホープってのなんの事だ?」
リリィ「あんたほんっとに何にも知らないのねぇ」
フレン「僕もビックリ。流石にホープ伝説くらいは知ってると思ってた」
リリィ「いいわよ。ホープ伝説について説明してあげる…昔の話なんだけどね…」