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厚底ランニングシューズで何が変わったのか

東京オリンピックのマラソン開催地が札幌に決まりましたが、今回はマラソンシューズに関する話題を取り上げてみたいと思います。

皆さんは、最近ピンク色のシューズを履いたランナーが激増し、好記録が連発されていることをご存知でしょうか。オリンピックの代表選考会でもあった今年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では、多くの選手が同じピンク色のシューズを履いていることに注目が集まりました。

図1参考:毎日新聞(2019.9.28)

このピンク色のシューズはナイキ社の開発した「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」という製品で、好記録を出しやすいシューズということでランナーたちの間でブームになっているようです。ブームの要因を探るため、今回はこのランニングシューズをTech Structureを用いながら分析してみます。

Tech Structureについての説明については、こちらをご覧ください:
https://note.mu/yugo_chikata/n/n81e835e53811

従来のランニングシューズ

まずは従来の一般的なランニングシューズについて、求められるニーズを整理しながらTech Structureを作成してみました。

図2

Tech Structureの青字部分では、「ランニングをサポートする」という要求を実現するためには、「快適に使用できる」「ランニングに適している」「疲労を軽減する」の3つが必要であり、さらにそれらを実現するためには、どのような機能が必要になるのか、といった情報が示されています。また、黒字部分の方ではランニングシューズがどのような要素で構成されているのか、という情報が示されています。
このような青字部分の情報(要求)と黒字部分の情報(製品)の関係性を紐づけることで、ランニングシューズの製品開発を考える際に重要となるポイントを見える化することができました。Tech Structureを作成してみると、一言でランニングシューズと言っても、どの機能を特化させるとユーザーから喜ばれそうか、どのように他製品と差別化すれば良いか、など、考えるべき項目がたくさんあることに気付くのではないでしょうか。

背反する要求を解決できるか?

さて、それでは、先ほどのTech Structureとの比較を考えながら、ナイキ社のランニングシューズについての分析を進めていきましょう。シューズの色がピンクで目立つことに注目が集まっていますが、この製品の真のポイントは厚底な仕様になっていることだと言われています。確かに、靴底すなわちミッドソールを厚くすると、「接地時の衝撃を緩和する」という効果を高めることができそうです。

図3

しかし、一方で、「軽量である」という要求を実現するためには、ミッドソールは「薄い」必要があります。このように、背反する要求が存在することが見えてきました。単純にミッドソールを厚くするだけでは、「軽量である」を実現することが難しくなりそうです。

ここで難しいとあきらめてしまうのか、それとも、何かブレークスルーとなる解決策を見出すのか、ここが新製品開発やイノベーション創出の最初の分かれ目になります。背反する要求を解決することができれば、これまでの世の中には無かった新しい価値を実現することができます

課題の解決策は?

では、このナイキ社がどのようにこの課題をクリアしたのか、その詳細を紐解いていきましょう。

調べてみたところ、このヴェイパーフライという製品には、「厚い」と「軽量である」を同時に解決する手段として、航空宇宙産業で用いられている「特殊素材 ズームX」という素材が採用されているようです。「軽量である」が達成されるのであれば、そもそも「薄い」という機能は不要となる、ということに辿り着けたことがこの製品の最大のポイントと言えそうです。課題が明確になったことで、必要となる技術や素材を最適化することができた良い事例なのではないでしょうか。

なお、特殊素材を用いるということで、クッションとしての耐久性やコスト面などで新たな課題が発生する可能性があります。おそらく、ナイキ社は、この製品のターゲットユーザーを一般のランナーではなく、本格的なアスリートに絞っているのではないでしょうか。シューズに投資をしやすいプロアスリートであれば、新しいシューズを頻繁に購入することができるため、耐久性やコストは大きな問題にならないと考えることもできそうです。

図4

このようにして、厚底のランニングシューズが開発された経緯を紐解くことができました。

ナイキのランニングシューズはここが新しい

さて、もう少し調査してみたところ、ヴェイパーフライの「ミッドソール」の中には、「カーボンプレート」が入っていることが分かりました。カーボンプレートには「反発力を生む」を生むという機能があり、これにより「脚を前に進める感じを与える」ことができそうです。「ランニングに適している」シューズには、特に有効となる機能なのではないでしょうか。こちらもこの製品を特徴づける上で重要となる第2のポイントと言えそうです。

以上の内容をまとめ、ヴェイパーフライのTech Structureを下図の通り作成しました。

図5

①特殊素材でミッドソールを厚くすることに成功したこと
②カーボンプレートで「脚を前に進める感じを与える」という機能を付加したこと
この2点がランナーたちの人気の要因だと言えそうです。また、一般ランナーよりもアスリートをターゲットとした製品であることも見えてきました。

終わりに

今回はナイキ社のランニングシューズ(ヴェイパーフライ)について、Tech Structureを用いた分析を行ってみました。製品に関する情報をTech Structureを用いて整理していくと、開発における課題や重要となるポイントを分析することができます。

企業で新規事業に携わる方々には、自身に知見の無い業界や製品・サービスについての情報を幅広く得ることが求められていると思います。新しい情報についての理解を深めていくためには、Tech Structureが非常に有効です。
Tech Structureを作成してみると、情報が整理されることで新しい発見や気付きが必ず生まれます。私もランニングシューズについて詳しい知識を持っている訳ではありませんでしたが、この記事を書きながらTech Structureを作成してみることで、短時間でナイキ社の製品開発のポイントを把握し、その取り組みについて分析することができました。

ぜひ、皆さんもご自身の製品開発や他社の分析などでTech Structureを活用してみてください。Co-cSと一緒にモノづくりを考えましょう!


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