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【小説】不思議な関係

 しんと静まった教室で、茶髪の少年が黒髪の少女に声をかけた。

みおちゃん、今日の予定は?」
「特にないけど……」

 校庭からは、部活生の声が聞こえてくる。茶髪の少年は、澪と呼んだ少女の隣の席に座った。

「じゃあ、少し此処で話さない?」
「いいけど。教室でいいの?」
「うん。誰も来ないだろうし」

 七社しちしゃ 澪は筆箱などを鞄にしまい、視線を茶髪の少年……九鬼きゅうき れいに向けた。

「神社の手伝いって、今もしてるんだ?」

 玲の質問に、澪は「してるよ」と答えた。澪の家は、花紅かこう神社という神社にある。彼女の父親が宮司なのだ。

「暇な時……大体日曜日は掃除するし、忙しい時は御守り売るのを手伝ったりしてるかな」
「そっか。だから、花紅神社は居心地がいいのかな?」
「だからって何なのよ」
「澪ちゃんは、こう、オーラが綺麗だからさ」

 玲の返答に、澪は少し口角を上げた。お世辞かも分からない返答だが、褒めてもらえるのは嬉しいのだろう。

 澪と玲は、元々全く接点がなかった。同じクラスだが、交流は皆無だった。そもそも、2人とも人と積極的に関わろうとするタイプではなかったのだ。

「澪ちゃんのお父さんの跡は、誰が継ぐの?」
「私の兄さんだよ。今は花舞はなまいを離れてるけど、結婚したら戻ってくるんだって」

 2人が関わるきっかけになったのが、澪の家である『花紅神社』だった。だから、あの神社は2人にとって大切な場所なのだ。

「へぇ、兄がいるんだ」
「結構年も離れてるけどね。玲くんは一人っ子?」
「そうだよ。多分、俺が生まれたから……」

 玲の家、九鬼家は遠い昔に鬼の血が混ざった一家だ。今は、かなり薄まっていて人間と呼んでも差し支えなかったのだが、玲は『先祖返り』をしてしまった。その影響で、玲は僅かながら鬼化することができてしまう。

 それが、澪と玲が接点を持った理由でもある。玲の姿を見た澪が怖がらず、鬼の姿の玲を受け入れたことで、この不思議な関係が始まった。

「先祖返りね。まぁ、だからこそ、こうして玲くんと関われたんだよね」
「そうなんだよな。だから複雑というか……澪ちゃんには感謝しかないよ」

 澪は昔から物怖じしない性格だ。男らしいと思われることも多い。そこが、彼女の長所でも短所でもある。

「大袈裟だよ」
「澪ちゃんからしたら、大袈裟なのかもしれないけど、俺はめっちゃ嬉しいんだ」

 玲は澪を見て、ふわりと微笑んだ。澪もつられて目を細める。

「隠さず話せる相手がいるのは嬉しいんだ。……また、話してくれる?」
「私でいいなら」

 教室の時計は17時20分を過ぎたあたりを指している。

「もうこんな時間だ」

 澪が呟くと、玲も時計に目を向けた。

「本当だ。もう帰る?」
「そうね、宿題もあるし」
「じゃあ、近くまで送るよ。話に付き合ってくれたお礼に」

 ニッと笑って玲が言った。戸惑いつつも、「えっと、ありがとう?」と澪が答える。

 相変わらず、校庭からは部活生の声が聞こえてくる。澪が教室を出ると、玲がドアを閉じた。階段を軽快に下りる音が、教室に響いてきた。


(終)

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