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湯気 川柳村

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湯気の川柳村
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#湯気川柳

夕闇に 小鈴鳴るよな 虫の声

夕方の散歩。蝉の声はいつのまにか聞かなくなったなと思うと同時に、澄んだ虫の音がする。 意外と高音なのだなとか思いつつ、耳を澄ます。あぁこれは、鈴の音だねとかまた思いつつ、すると、辺りも日が暮れて、すっかりその音の中に包まれて歩いている。 見上げた木の影と空の色の絵。

やりたいな こわいなぁでも やりたいな

やりたいことをできる機会に恵まれて、さっと行動に移せるならいいけれど、気持ちが強い分こじらせると言いますか、前に進むことに、もじもじしてしまう。 なんだかわからないけど、怖い。 失敗のイメージが「怖い」のか、実現する興奮感が「怖い」のか、変化の予感から本能的に「怖い」のか。まぁ、どれもあるのです。 ただ、肝心なのは、やりたいに挟まれていることです。

思いだす ああこんなにも 降るんだと

季節の印象は曖昧だ。 実際の梅雨の雨の日、晴れ間からのザーザー降りの外を眺めて、 梅雨ってこうだったよなとやっと実感する。 そうやって少し経てば、またぼんやりとしていく。

梅ほじる 降り出した雨 梅雨入りか

昨日取ってきた青梅を漬ける準備。 青梅をきれいに洗い、水気をとり、竹串でヘタをとる。すぐ終わると思って始めたが、ヘタをくいっときれいに取るにもコツがいる。一粒ずつやっていく。いつの間にやら夢中になる。 指先の青梅に一点集中していると、窓を打つ雨音が聞こえ始める。 先ほどお天気アプリの速報で、梅雨入りを告げていたっけ。

至福かな 湯にほぐされて 唸りでる

湯船に沈んだ時、全身が解きほぐされて、身体の根底から唸り声が出る。 あれは一体、何者の声なんだろう。 お風呂でしか聞けない、己の声もあるよね。

悩みごと 蒸籠に聞けば 蒸しパンのまる

台所でタイマーを眺め、蒸しあがるのを待っていると、ふと、どうしたものかと悩みごとが頭をもたげる。思考しているうちに、タイマーが鳴り、蒸籠をあけると湯気の中に蒸しパンが、丸く丸く膨らんでいる。完璧な丸。答えはここにあったのか。

日々つづる 過去の我をば うつくしく

10年日記というものを付けている。 ページを開くと、見開き2ページが一日の日付けで、それが10段に分かれていて、一冊に10年分の日記が書けるようになっている。 日記を書きながら、ちょうど一年前の自分が何していたのか覗く。 これをしたくて書いている。ほぼ忘れていることがつらつらと。 はじめは、偶発的な発見、例:同じ日に偶然同じ人にばったり、とかを楽しみにしていた。最近は、過去の状況と今日を省みて、少しの進歩を褒めてみたりする。 1年の変化はうっすらだ。しかし、2年、3年は結構、

野の草の 緋色に褐色 いとおかし

冬が深まっていく。野の草も色をなくす。 無くす前の緋色、色を無くした褐色、これもまたいい景色。