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63: 見てみたいサファイアみたいな大波のうねり色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

先ほどから蒼い瓶の前で悩んでいる少女がいる。
最初は珍しいものを見るように,
ワクワクとした雰囲気を振りまきながら
店を一周していたのだが,今は…

その蒼色を見つけた時、ドキリと
心臓が跳ね上がった。 
だって,,,その瓶の色が
絵本で読んで,写真を見て、旅行雑誌を見て、
小さなころから憧れてやまない
「海」の色だったから…

どこまでも蒼が続き、
やがて空と海を分つ果てまで行くと,
一方の青は高く上がり,
もう一方の蒼はそこから果てしなく横に広がる,
その広さを想像をしただけで,
小さな頃は恐怖すら覚えたものだった。

ゆらゆらとうねる蒼を閉じ込めた瓶を
そっと手に取ってみる。
店に入ってくる柔らかな日にかざしてみると,
蒼の海が大きく広がり,おもたげにうねる波,
陽の光を反射してきらりと光る波間を
見せてくれた。

海が閉じ込められている…

いつか映像で見た波の動きと音が
キラキラと脳裏に蘇ってきた。

緑が深いこの地に生まれ育ち,
行っても行っても果てがない緑が続く
私の知っているあの地は,
過去も未来もずっと“緑の人々”と呼ばれ続け,
海というものを見ずに次の世代へと
移り変わって行くだけだと思っていたのに,

ここに海がある…!

「気に入っていただけましたか?」
いつのまにか店員らしき人がそばに立ち,
ニッコリと笑いかけて話かけてきた。
「ええ,ここに憧れてやまない海があったの」
「そうですね。
その瓶の海は,小さな島国に生まれた女の子が,
1番お昼寝に最適な,気持ちのいい
うねりの出ているある晴れた日に,
自慢の色だと誇らしげに
案内してくれて採取してきたものです。

そして,彼女の知っている場所は,
青い海と空,まばらに生える椰子,短い下草,
そんな感じなので,あなた方が住むような
深い緑に囲まれ,時には視界が効かないほどの
白い霧に覆われ,しっとりと湿り気を帯びた
空気や葉,花を知らないと言い,
ずいぶんとお土産代わりに話をせがまれました。」
「ふふふ。私も見てみたくて
たまらない海だったんです」
「次に島へと採取に向かうときは,
あなた方の森の色を
彼女へのお土産にしましょう。
きっと目を見張ってあなたと同じように
日にかざして森を楽しむでしょうね。」

「私たちの森が海のそばに行ける?」
「ええ、そして向こうの海が森に来る。」

頬を興奮でピンク色に染めた彼女は,
大事そうに蒼の瓶を抱えて帰って行った。

今夜は夢の中で海辺に遊びに行けると思います。
そして海の彼女がこちらへくる日も
そう遠くないと思います。

大きくうねるサファイア色の海,
貴方の元にも届くといいですね。
不思議な行き来が叶うかもしれませんもの。




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