絵を描く : #「文芸部」
「文芸部でした。」
やっぱりそうかと思った。
ヒョロリと細くて、色白で、カメラを重そうにぶら下げるその姿から、そんな感じがした。
「私もですよ。
でも、本当は落語研究会だったんですけど、部員が少なくて部活に入れてもらえなくて、落研部員はみんな文芸部に席を置いていただけなんです。
ほら、詩とか書くなんて小っ恥ずかしいから、席があっても、な〜んにもしてなかったんですけどね。」
「絵をお描きなら、美術部ではなかったんですか?」
「あ〜。
美術部は、美大進学の人が多かったから厳しくて、ちょっと無理でしたね。
本当はアーティスト志望だったのに、どこで違っちゃったんでしょうね。」
そう答えながら、心がチクっとした。
本当は…。
心の奥の「本当の私」をいつも隠して生きていた。
本当は…。
本当は…。
本当の事を言って、馬鹿にしたように蔑まれるのが怖かったから、誰かの作った普通を生きるふりをしていたのを、今更ながら気づいてしまった。
だから、普通に仕事をして、睡眠を削って、絵を描いている。
絵を描く期間は、30時間起きているなんて普通のことだ。
それでも、特別評価してくれる人もいない。
頑張って描いても、評価されずに、それでも絵を描いている。
時々、何のために描いているんだろう、無駄なことばかりしていると、自分を責めていることもある。
本当は、絵を描きたいの。
そう、誰かに素直に言えたら…と、それでも思ってしまう。
「毎年、個展されてるんですよね。
去年は、取材ではなかったけど、個人的に見させていただいたんですよ。
派手さはないけど、ずっと見ていたいような、見方によって見え方が変わるような感じが面白いなぁと思って…。」
「そうなんですか。毎年見て頂けてるなんて嬉しいです。
でも、もう、個展も潮時かなと思ってるんです。
何のために描いてるのか分からなくなって…。」
「ははは。
僕も、仕事でなかったら、記事なんて書いてないかもしれません。
誰にも見せずに、小説書いたりはするかもしれませんが。
でも、もし、来年も個展されたら僕は見に来ると思います。
ゲージュツって、難しいですよね。
他者に評価を任せると余計分からなくなるし…。」
こうして、毎年、見に来てくれる人もいる。
私が、絵を描くことを許して欲しいのは、家族なのだろう。
「そんなことやって…。」
と、冷たい言葉と視線から逃げたいだけなのだ。
「私は絵が描きたいの」
そう言いたいのは、世間に向けてではないのだ。
「……。」
「絵を描く人、文章を書く人。
何をやりたいかは人それぞれだけど、世間に公表するしかないに関わらず、どちらにしろ、やるでしょう。
だって、やらずにはいられない人種なんですよ。
あなたなら、絵を描いちゃう人種。
それなら、来年もまた見たいと思いますけど…。」
トップ画像は、
浅野アキラ先生の絵をお借りしました。
30分オーバーしました😰