美容外科の麻酔
前回は静脈麻酔について書きましたが
こちらです↑
(美容外科で麻酔をするのに不安がある方は是非こちらも合わせてお読み下さい。無料です)
今回は美容外科の麻酔特有のことについて、麻酔科専門医の視点からお話していきたいと思います。
このnoteは、
✅これから美容手術を受ける予定の方
✅美容の麻酔をしたい方
✅美容外科医
✅美容外科ナース
におすすめです。
美容外科手術の普及に伴って、術後の合併症に関するニュースもちらほら目にするようになりました。
それを見るたびに思うのは、美容外科はまだまだ発展途中の分野なんだなということです。
安全の基準とかって、何かアクシデントが起こって、それで作られていくのが多いですよね、
麻酔もそうです。
例えば1999年の横浜市大の患者取り違え事件。肺の手術予定の患者さんと心臓の主人予定の患者さんを取り違えて手術予定し、手術終了まで気付かなかった。
原因は手術室への患者受渡しの際の取り違えが、そのままチェックポイントをすり抜けてしまったこと。
これを機に、患者さんに氏名を言ってもらったり、患者識別バンドの読み取りを行うなどのシステムが整備されました。
このように、それまで皆が問題ないと思っていたことが、急に問題になることがあります。
つまり、いつか美容外科の麻酔でのトラブルがニュースになる日が来るかもしれません。
というのも、私は空いた時間で美容クリニックの麻酔バイトに行くことがあるのですが、正直ヒヤッとしたことが複数回あるからで😣
それは、美容外科麻酔のこんな特徴に起因します。
美容外科では
・入院施設がない
・看護師さんが麻酔介助に慣れていない
・美容手術後の患者さんが多い
・頭頸部の手術が多い
もちろん、今の所問題がないし大丈夫!という方は読まなくて大丈夫です。医療事故って滅多に起こらないものですからね😊
保険と同じで、確率の低いことに備えるかどうかは貴方次第です。
(ちなみに、世に出回っている医師の自賠責保険は自由診療は適応されないことがあるので注意して下さいね。)←私も最近知った😂
ここから本編です。
美容麻酔の特徴
①入院施設がない
総合病院の全身麻酔後は、通常ベッドのまま病棟に戻り、少なくとも一泊様子を見ます。
しかし、入院施設がない美容外科では患者さんはそのまま帰宅か、もしくは近隣のホテルに宿泊することになります。
入院であれば医療者の目が常に行き届く環境で術後を過ごすことが出来ますが、それが叶わないのです。
そのため、美容の麻酔で求められることは
1.覚めが良いこと
2.痛みのコントロールができていること
3.吐き気がないこと
この3点が重要だと考えます。
1.覚めが良いこと
これはそのまま、わかりやすいと思いますが、麻酔からしっかり覚めていないと歩いて帰ることは不可能です。
なるべく早く効果の切れる薬剤の使い方が求められるます。
2.痛みのコントロール
「なるべく早く効果の切れる薬剤」
これがあるなら、毎回これを使えばいいのでは?と思いますよね?
でもそれはそうとも限りません。
理由は、痛みのコントロールにあります。
麻酔から覚めれば覚めるほど、頭はハッキリして痛みを感じやすい状態になります。
いくら頭がハッキリしていても、強い痛みがあったら動けませんよね?
なので、痛みをある程度制御しつつ
ちゃんと麻酔から覚めるように計画する必要があります。
3.吐き気がないこと
これは、美容外科医の先生方はよくご存知だと思います。
なぜなら、バイトに行くと毎回
「あのー、すみませんが、なるべく吐き気がないように麻酔お願いします🙇♀️」
と声をかけられるからです。
この麻酔後の吐き気、本当に侮れません。
なかなか動けない人のほとんどはこの吐き気によるものと思って過言ではありません😣
ちょっと気持ち悪くなっちゃう人から、
オェーと吐いてしまう人まで様々ですが、一応予測因子があります。
・非喫煙者
・若い女性
・乗り物酔いする人
美容外科にいらっしゃる患者さんに多そうなキャラクターですよね。
こういう因子に当てはまるからといって必ずなる訳でもないし、因子がなくてもなるのが面倒なところなのですが…
予防するお薬もあります😊
一般的によく使われているのは
・デキサート(ステロイド)
・グラニセトロン
・ドロレプタン
ですね。
これを組み合わせて使っても、単独でもOKです。
②看護師さんが麻酔介助に慣れていない
これは本当に当たり前のことです。
そりゃ、美容外科にいるナースさんは麻酔の介助したくている訳じゃないですからね。
どちらかと言うと、美容に興味があってなられる方が多いのではないでしょうか😊
どの処置でもそうだと思いますが、医者にとって看護師さんの介助は本当に大きいです。
介助が適切であればあるほど、仕上がりが変わってきます。
ほんとに看護師さん様々なんです💦
麻酔もその例外ではありません。
「麻酔を分かっている」看護師さんがいるだけで、とってもとってもとーーーっても
やりやすいんです😂(いつもありがとう)
なので、そんなヌクヌクの環境から急に「麻酔のこと、わかりませんのでご自分で…」の環境になると温室育ちの我々はパニックになります(笑)。
麻酔に関することを全て自分でやる覚悟
それが必要です。
③美容術後の患者さんが多い
美容麻酔をしていて「おおお?!」と思ったことの一つに、見たことのない術後の患者さんがいる、というのがあります。
保険診療でやる手術の術後の方ならある程度遭遇したことがあり、「この術後の方はここに気を付けたらいい」という情報があります。
しかし、たまに美容麻酔をする場合はそれがありません。
私が記憶に残っているのは、顎周りの脂肪吸引後の患者さんです。
恐らく、美容外科的にはそんな大きな手術ではないでしょう。なんせ吸引するだけですからね…
なので、患者情報でもすみっこに書かれているだけでした。(美容手術する患者さんは、複数回手術していることが多いので過去の手術欄はパンパンなことが多いです)。
私も、脂肪吸引、ヘェーくらいのノリで寝かせたあと、いつものように顔を触ったら
アレ・・?!!
顎回りがカチコチで首が全然動かない!!
いわゆる、拘縮の状態でした。
全身麻酔で眠ったあとは、マスク換気をしたり
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挿管をしたり
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で、首回りを動かす手技が多いのですが、拘縮で固いためにとても難しかったのです😣
これは、ノーマーク!!
美容外科界ならではだなぁと思いました。
このように、保険診療の手術ばかり見てきた医者にとっては美容の手術は未知の領域であり、注意が必要だと思います。
④頭頸部の手術が多い
麻酔科医にとって、患者さんの顔の近くに居られない事はとってもストレスです。
何故なら、寝た後の患者さんの呼吸を管理するには顔の近くが1番便利だからです。
美容手術はやっぱり、顔周りの手術が多いですので必然と麻酔科医は顔から遠ざかることになります。
しかも、顔の一部を切ったり塗ったりしている時に邪魔をすることは出来ません。
"呼吸トラブルがあってもすぐ何か処置出来ない"こんな恐怖がずっと、付きまとうことになります。
トラブル予防策
さて、美容麻酔が難しい理由を挙げてきましたが、トラブルの予防としてできることは何でしょうか?
・美容麻酔の注意ポイントをスタッフ皆で把握する
・美容麻酔の特徴を知っている麻酔科医にお願いする
・何かあった時搬送出来る近隣病院を見つける
・可能であれば麻酔介助の勉強会をする(スタッフ教育)
私が思いついたのは上記です。
勉強会、大がかりなのは難しいと思うんですよ。美容クリニックは次から次へと患者さんがいらっしゃって多忙だと思いますし。
美容クリニックでも大抵1人はオペ室経験者のナースさんが働いてると思いますので、その方が空いた時間にちょっと説明するとか、それだけでもいいんじゃないかなと思います😊
近隣病院との連携をとっている大手クリニックもあります。そこまで行かなくても、近くに搬送できるような病院があるか確認しておくのが良さそうです。
これから美容麻酔のバイトをしたい方はこのnoteを参考に、慎重にバイトしてね😂