ピクニック

朝5時に目が覚めた
隣にはまだ寝ている彼女がいる
短いボブが少し乱れて、パジャマがはだけて少し体が冷えてしまっていた
目元にかかった髪を直し、布団を掛けなおす
すこしだけくっついていたら、彼女の体が温まってきた

「もう大丈夫かな」
まだ日が出たばかりで薄明りの中、リビングに向かう
うちの娘も、麦色のうさぎさんも、まだ自分の寝床で寝ているよう

挽いてあったコーヒー粉を、水を入れたエスプレッソマシンにセットして、ガス火にかける
マシンは彼女へクリスマスにプレゼントしたものだ
そのとき小さな五徳がなく、とりあえずありものの金網をセットして、その上に置いた

初めてエスプレッソを淹れた日を思い出す
二人でブラウニーを焼いて、その合間に包装を開けて、彼女が嬉しそうに笑っているのが印象的だった
かわいすぎて、そのままハグしてしまう
ブラウニーとエスプレッソができるのをソファで音楽を聴きながら待っていて
ゆっくり丸テーブルの上で、二人で食べたっけ
ふたりでゆっくり1時間ほど過ごしていたら、夕暮れが近づいた
彼女は「子どもを迎えに行かなきゃ」と、コーヒーを流し込んだ
子どもの送迎バスの停車所まで彼女を送り、ぎゅっとして、少し寂しく駅へと向かった

そんな付き合いはじめを思い出しながら、彼女と娘とうさぎさんと一緒にいられる幸せをかみしめる
シュワシュワと蒸気が立ち込めてくる
そろそろできたようだ
火を止めて、カップにアーモンドミルクを注ぐ
クレマができたエスプレッソをゆっくりと流し込み、カフェオレを2人分つくる
その香りで彼女もじきに起きてくるだろう

ベランダで朝焼けを見ながらコーヒーの香りと湯気を感じる
彼女が付き合う前にお迎えした観葉植物がベランダで元気をなくしている
土の入れ替えとか肥料しないとな、と買い物しないといけないものを考えながら、テラスの椅子でゆっくり外を眺めてた

少し目がさえてきて、部屋へと戻る
今日は代々木公園まで出かける予定だ
最近お迎えした車に乗って、三人で出かける
そのうち大型犬でも迎えようと、遠出やアウトドアができるようにフォレスタを買った
大型犬は彼女が懇意にしているブリーダーからお迎えすることになっていて、新しい子が生まれたら、連絡が来るらしい
うさぎさんと新しい子は仲良くなれるかな、と思いながら、うさぎさんの頭をなでた
この子なら優しく受け入れてくれるだろう


お昼のサンドイッチの中身やおかずを考える
キャロットラペとレタス、炒り卵とこんがりベーコンを挟むか
あとはタルタルソースと昨晩のから揚げに照り焼きソースをまとわせて挟んだり
残っているマッシュルームとなす、細かく刻んだ豚肉を味濃いめに炒め、レタスと合わせて挟んで、レモンを添えたり
スープもつくろうかなとか、いろいろな妄想と段取りを考える

彼女が起きてきた
「おはよ」
ソファテーブルにあったカフェオレに気づいて、座って飲み始めた
熱すぎず、ちょうどよい加減だったようだ
となりに座ると、彼女が膝枕で寝転んでくる
猫みたいだな、と思いながら、目を見て、頭をなでて、喉元をごろごろする
「かわいいな」
ぼそっと思ったことを口にしたら、彼女は笑っている
「すきだなぁ」
また思ったことがでてしまった
少し照れている僕のほおを、彼女がなでてくれた

「今日朝何食べたい?」
照れ隠しに話を変える
「フレンチトースト、スクランブルエッグにあまじょっぱいベーコンと温野菜がいいな」
「おっけー」
いってくるねのぎゅをして、台所にむかう
フレンチトーストは牛乳へ先につけておくと、すぐにしみしみになって、溶き卵を絡めて、バターで焼くとすぐできる
多めに作った溶き卵とベーコンをそれぞれ炒めて
温野菜は常備しているブロッコリーとジャガイモで、あとは先日農家さんからもらったみずみずしいトマトを添えた

娘の分も、うさぎさんのごはんも準備した
うさぎさんは目が覚めておなかがすいたのかそわそわして待っていた
娘を起こしにいく
幼稚園のころからひとり部屋で寝るように習慣づいていて、自分をしっかりもっている子だ
「おはよーおきよー」
声をかけると、眠たそうにしながら起きて、よたよた歩きながらソファに座った
「いただきます」
三人と一匹でゆっくりご飯をしながら過ごすこの時間がしあわせだなとおもう
みなでピクニックでやりたいこと、食べたいものを話しながら、みなで考えるこの時間は、みんなでなにかを形作っている気がして、かえがたいものだなとかみしめた

このあと三人でランチをつくって、さわやかな公園ですごして
今日も良い一日になるだろうな




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