期待はいいこと?

先日親戚の集まりでとある旅館に行ってきた。
親戚といっても母方の祖父と母と私の3人で。
難病を患っている喜寿を迎えた祖父とのお墓参りを兼ねた旅行。
実に貴重な時間だ。

旅館は15時チェックイン開始。30分ほど早くついてしまった私たちは、
雨が降っていたこともあり、中で待てないか聞こうと旅館の入り口まで行ってみた。
すると『チェックインは15時からです。しばらくお待ちください。』と張り紙が。ちなみに施錠もしてあった。

「時間厳守みたいだね~。車で待っていようか?」とインドアな私は提案するものの、心が元気なじいちゃんは周辺を散策したいようだった。
雨の中祖父の足取りを見ながら歩き回り、ほどなくして15時近くになったので「そろそろお宿向かおうか!」と早く雨から逃れたい私が率先して促し、旅館へ向かった。

さっきまでしまっていたドアが開いており、女将さんが出迎えてくれた。
「こんにちは~。」と挨拶をすると
「こんにちは、女性の方はこちらのスリッパ男性はこちらのスリッパをお履きください外靴はそのままで大丈夫です、あぁお父さんドア閉めてください虫が入るので。」

一息で言われ、私たちはそそくさと言われたとおりに動いた。
部活の先輩から指示を受けたときの緊張感が走る。

次はチェックイン手続き。
たまに丁寧に話そうとして2重敬語を多用するホテルスタッフを見かけるが、ここの女将さんはひと味違う。淡々と、でも抜け漏れがない。
一緒に仕事したらとても頼りになるけど、怖いんだろうな…なんて心の中で思った。

朝ごはんは8時希望。
「うちはBSは映らないけど朝ドラ見ないですか?」
「あ、、はい。」
事務的な話ばかりだったので、急に朝ドラの話を出されて一瞬戸惑った。
BSで7時半から朝ドラを見た後にご飯を食べよう、はできないよ。ということか。
ずっとマニュアルを読んでいるかのような淡々とした語り口調だから、内心クスっとした。

急な階段を上がり、お部屋に通してもらった。
掃除が行き届いていて、細かい案内が書いてある用紙も準備されていた。

一番の楽しみの夜ごはんはすべて地元の食材が使われていて、それも女将さんが全て説明してくれた。
「なんだこれ!ええ!美味しい!」と思わず声に出してしまうほど。
揚げたてのメヒカリは本当に絶品だった。

食後のお風呂も、ザ源泉かけ流しというようなとろみと香り。
熱さもちょうどよくて、宿泊者1組ずつ1時間貸し切りにできるのも嬉しいポイントだ。

聞くところによるとこの旅館、旦那さんが料理人で、奥様が女将さんをしているようで、他のスタッフをあまり目にしない。
それゆえ女将さんとの話す回数が増えて、しっかり私たち家族を覚えて対応してくれているのがわかって、なんだか久しぶりにほっこりした気持ちになった。

最近、ホテルに泊まってもアットホームな感じがしないビジネスホテルと大差ない宿泊経験が多かったせいもあってか、この旅館にはまた来たいなと感じた。

 実はこの宿に来る道中でこの旅館のグーグルコメントを見て、私の期待値はグンと下がっていた。
『女将さんが冷たかった。』というコメントが目立っていたからだ。
温泉とご飯はいいみたいだからそこを楽しみにしようと思っていたが、お宿を出る時には「女将さん、最初は怖かったけど話し方がそっけないだけだったんだね。気遣いもあったし、思ってた以上にいい旅館だったね!また来たいね!」とホクホク顔になっていた。

これがもし口コミを見ずに宿泊していたら、このお宿の良さに気づけなかったかもしれないと思うと、恐ろしい。

マイナスの感情はプラスよりも影響力が大きいのかもしれない。

女将さんに対するマイナスなコメントをした人たちは、
食事中に写真撮影をお願いすると、普段笑わない祖父の笑顔を引き出してくれる女将さんの技術を目にせずに、
第一印象のそっけなさだけですべてを評価してしまったのだろう。

なんともったいない。

せっかくの貴重な時間とお金を使って旅行するのであれば、楽しい思い出にしたいのは全人類共通だといっても過言ではない。
でも同じ体験を通しても感想は人それぞれ違う。全く不思議な話だ。

この不思議を解明したく色々考えてみた。
すると意図せず期待値を下がっていたことが功を制したことに気づいた。

いつも楽しそうな人がいるが、
もしかすると、彼らも相手や物事への期待値を下げるという、ある意味ドライな考え持っているから楽しめているのかもしれない。

確かに「まあ楽しいからオッケー!」とか「気にせず楽しもうよ!」とかよく言っている。
つまりは、こんな嫌な部分はよくあることだよ、楽しいからいいじゃん!と、そもそも嫌な部分を認めていたり、端から高い期待を抱いていない。

【相手や物事の悪いところを想定することで、いい部分に目を向けられるようになる。】

満足度を上げるためには必須技術なのかもしれない。

何事にもいい面、悪い面はある。もちろん何でもかんでも自分が我慢すればいいという話ではない。

だが自分の中の満足度を上げたい時は、
悪い面を最初に想定するのは良い手なのではないだろうか。