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その金はわしが払うんやないんやで

前職時代、ある会社の社長に言われた言葉が今も頭にこびりついてる。

その会社さんはとある分野の卸業を営んでたが、直営店舗での直販に乗り出し、そのままインターネットで直販を強化していくことに梶を切った。

僕らがその会社のECサイトのお手伝いを始めたのは、1997年か1998年ぐらいだったと思う。すでにECサイトは運営されていたが、お世辞にも良いものではなかった。膨大な商品があるのに検索機能、ナビゲーション機能は貧弱だし、動線はトップページからしか考えられてなかった。インターフェイスも決して使いやすいとは言えず、特にカート機能は途中離脱が続出するんじゃないかというような使い勝手の悪さだった。

それでもそのECサイトは当時月商で300-500万ぐらいの水準だったと思うが、社長としてはこれをもう一段階上の水準に持っていきたい。最低でも月商で1000万。できれば3000万ぐらいには早期に持っていきたい、そんな野望を持っていた。しかし、今のサイトではオペレーションも含めて、すでに今の売上規模で限界に達していて、そこをなんとかして欲しいというような相談だった。

僕らは、中途半端に今のサイトに手を入れて、改善しても付け焼刃に過ぎないと考え、根本からのフルリニューアルを提案した。単にサイトのリニューアルではなく、オペレーションも含めての刷新だ。基幹システムとの連携やら、受注/出荷業務の効率化などまでを提案内容に盛り込んだら、当然ながら、かなりの見積り額になった。 

もともとのサイトを作った時にかかった費用の10倍ぐらいの価格になっていたらしい。

その見積りを見て、社長が言ったのがタイトルの言葉だ。

木村はん。このかかる費用な。このお金はわしが払うんやないんやで。うちのサイトを利用するお客さんが増えて、そのお客さんが払ってくれるんやで。うちらは立替とくだけなんやで。そこ、よー覚えといてや

社長が言いたかったのは、これだけの金かけて、リニューアルするんだから、お客さんが増えて、売上増えないとあかんで、ということだ。当たり前だといえば当たり前だけど、当時、そういう視点はなくて、かなり衝撃を受けた。

社員の給料は誰が払っているか? もちろん会社が払っている。しかし、給料を払うためのお金はどうか? 営利目的の企業であれば、そのお金はすべてお客さんが支払ったお金で賄われてる。こんな当然のことさえも、忘れてしまってたりする。

ビジネスを始めたばかりの頃に、この社長に言われた一言は、その後、自分の仕事をしていく上でのベースの価値観になった。

ソリューションの仕事なら、究極的にはお客さんが儲かるようにしないといけない。お客さんが儲かることで、僕らはお金をいただく。実際の契約形態は色々だが、本質としては「作業」の対価ではなく、「成果」の対価としてお金を貰う。それがソリューションだ。

木村石鹸に移ってきてもこの精神は忘れてないつもりだ。
うちの商品を取り扱ってもらうには、取り扱い続けてもらうためには、商品が売れて、お店も儲からないといけない。
僕らはお店や問屋に売ったら終わり、ではなく、そのお店に人が行って、僕らの商品を購入してもらえるように促していかなければならない。そんな風に考えてる。なので、自社商品を取り扱ってくれるお店には、できるかぎりの販売協力をしたい。

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