「教えて、湯田さん!」~4月から給与デジタル払いが解禁~(前半)
2023年4月、いよいよ『給与デジタル払い』が解禁されます。
簡単に言うと、皆さんの給与をPayPayやLINE Payなどに直接受け取ることができるようになるというものです。
「え?そうなの?」という方もいれば、「さっそく利用したい」という方、もしくは「何かビジネスチャンスがあるかな」と考えている方など、受け止め方はそれぞれだと思います。
そこで今回、ZホールディングスのCVCであるZ Venture Capitalで、フィンテック領域を担当する湯田 将紀(ゆだ・まさき)さんに、コミュニティマネジャーの高橋 翔吾(たかはし・しょうご)が話を伺いました。
前半は給与デジタル払いをまだ詳しく知らない人向けに、後半はスタートアップや業界向けに今後のビジネスチャンスについて触れていきます。この記事を通じて、給与デジタル払いの流れがぐっと身近なものになると思います。
題して「教えて、湯田さん!」。
4月から給与デジタル払いが解禁!何が変わるの?
高橋:ねえ、湯田さん。4月から給与デジタル払いが解禁されるって、本当?
湯田:はい。本当ですよ。不思議そうな顔をしてどうしたんですか。
高橋:今まで給与といえば、銀行口座に振り込まれるのが常識だったから、なんとなくしっくりこなくて。
湯田:そうですよね。でも大丈夫ですよ。給与デジタル払いはメリットも多く、理解するときっと良さが分かってきますよ。一緒に勉強していきましょう。
高橋:せっかくなので、この機会に頑張ってみます。
湯田:安心してください。少しずつ紐解いていきます。あ、その前に少しお時間をください。
高橋:うん?
湯田:お待たせました。
高橋:(ふざけている…?)
湯田:真面目です。少しシャイなので、役に入ったほうが話しやすくて。ちなみにtwitter(@yudamasak1)のアイコンもずっとこれです。
高橋:…まあ話しやすいんだったら、それでいいです(笑)
湯田:さっそくですが、高橋さんは電子マネーはよく使いますか?
高橋:去年、転職をしてから使う回数が増えたかな。あ!驚いたのは、オフィスの食堂の支払いは電子マネーのみで、現金が使えなかったこと。あの時、スタッフの方に「本当に現金は使えないんですか?」と何度も聞き返しました。いま思い返すとスタッフの方には申し訳ない……。
湯田:はは。現金派の人には衝撃かもしれませんね。
高橋:4月から給与デジタル払いが解禁されると、私たちの給与そのものが電子マネーで振り込まれることも可能ということだよね?
湯田:もちろん可能ですよ。PayPayなどのスマホ決済アプリや電子マネーを利用して、企業は従業員に給与を振り込むことができるようになります。もちろん、選択肢の1つなので、希望しない場合はデジタル払いを選択する必要はなく、これまでどおり銀行口座等で賃金を受け取ることができます。
(給与デジタル払いのイメージ)
高橋:あ!素朴な疑問。どうして給与をデジタル払いにしようという動きになったの?
湯田:気になりますよね。ポイントは主に2つあります。1つは銀行口座がない従業員に現金以外で給与の支払いができるということです。
高橋:銀行口座がない人?
湯田:例を挙げると、銀行口座の開設のハードルが高い外国人労働者などですね。
高橋:なるほど。
湯田:もう1つはキャッシュレス化の普及によって、電子マネーで受け取りたいというニーズが増えていることが挙げられます。
高橋:キャッシュレス化という言葉を聞くようになってだいぶ経つけど、どれぐらいサービスが増えているんだろう。
湯田:国内でも様々な決済アプリや電子マネーがあります。先ほど挙げたPayPay、それにLINE Payといったスマホ決済アカウント。また、Kyash、B/43のようなチャージ式プリペイドカードもその1つです。
高橋:PayPayなどは使えるお店も多いから、どんどんユーザーが増えているよね。
湯田:そうした使いやすさもあって、2月にはPayPayの直近の登録ユーザー数は5,500万人を超えました。スマホユーザーの約1.7人に1人が登録していることになります。
高橋:すごい数字。確かに最寄りのスーパーでも年齢問わず電子マネーで決済している人を見る機会が増えたと思う。ところで、給与デジタル払いが解禁されると、どれぐらいのサービスが利用可能になるの?
湯田:約80ある資金移動業を持つ企業のうち、厚労省の認可を得た企業の決済アプリや電子マネーサービスが対象になります。先ほど挙げたようなサービスは対象になるので対応を検討しているでしょうね。
高橋:すぐにすべてに対応という形じゃないんだね。
湯田:まずは一般に普及しているサービスから優先的に対応することになると思いますよ。
高橋:従業員が普段使っているものに給与が振り込まれることは分かったけど、ほかにメリットはないのかな。
湯田:良い質問ですね。実は…あります!
高橋:ええ、だったら早く教えてくださいよ(笑)
湯田:最たる例が、会社でよくある経費の立替かと思います。従業員が経費を立替て支払ったあと、会社にその分を申請しますよね。そうすると毎月10日、20日、月末など月の決まった日に会社から申請した経費が振り込まれます。
高橋:あるある。あれ結構戻ってくるの遅いんだよな(小声)
湯田:いま、聞こえないように毒を吐きましたね。
高橋:気のせいです。ところであれはなぜ決まった日なんだろう?
湯田:一番大きな理由は、銀行振り込みの手数料を抑えるためです。毎日、振込をしてしまうとその分手数料がかかりますよね。でも日にちを決めておけば最小限の手数料で済みます。
高橋:確かに。でもそれが給与デジタル払いと、どういう関係があるの?
湯田:同僚や友人とごはんに行ったとき、会計で支払った人に対して人数で割った金額をPayPayで送金することがありますよね。
高橋:よくあるシーンですね。
湯田:その時、手数料はかかりますか?
高橋:いや手数料は考えたこともなかったな。手数料が必要ないから、その場で素早く払えるのが良さだよね。
湯田:これは、会社の経費精算でも同じことが言えます。
高橋:えっと……それはつまり?
湯田:つまり手数料がかからないと、決まった日を待たずに、従業員が立替えた経費を精算することもしやすくなりますよね。
高橋:!!!
湯田:経費立替が多いサラリーマンなどにはすごく有難いですよね。
高橋:(思えば、社会人になってすぐの頃。出張が重なった月には、次の給与や振り込みまでそわそわしていたけど…あの時にこれがあれば…デートだって…)
湯田:ほかにも、会社の福利厚生を使用した際にかかった費用も同様なことが考えられますね。って高橋さん、聞いていますか?
高橋:あっ…ようやく給与デジタル払いの本当の良さを実感してきました。
湯田:デジタル払いを使用することで、支払いの頻度や条件設定がこれまでよりも柔軟にできるようになることが期待されます。ただ、既存の給与振り込み処理のオペレーションを変えないといけないなど、一筋縄ではいかない課題はあります。そのため一気にばんっと変えるというより、少しずつ、給与デジタル払いの仕様を増やしていく企業が多いかもしれません。
高橋:すごいな。一気に給与デジタル払いへの関心が高まりました。
湯田:最後に。デジタル給与の口座残高は100万円が上限です。現状では高額な支払いができないなど、まだまだ整備途中の段階にあります。そのため給与デジタル払いに対する課題に対して、解決や提案をしてくれるサービスが注目されます。後半の記事では海外の企業の事例を紹介しながら、日本やグローバルで予想される「ビジネスチャンス」について詳しく紹介します。
高橋:難しくないですか?
湯田:大丈夫です。ゆっくり理解を深めましょう。
高橋:湯田さん、ありがとう。私も導入が待ち遠しくなりました。あと10年導入が早ければ、デートが上手くいっていた気がしました。
湯田:え?なんの話ですか?
高橋:ひとり言です。
湯田:(大丈夫かな?)では、最後にまとめますね。