「教えて、湯田さん!」~給与デジタル払いのビジネスチャンス~(後半)
「教えて、湯田さん!」~4月から給与デジタル払いが解禁~(前半)では、給与デジタル払いのメリットについて触れてきました。
後半では、スタートアップや業界向けに今後のビジネスチャンスについて触れていきます。実際に企業に給与デジタル払いが導入されるまでにはいくつかのハードルがあり、海外のベンチマーク企業をもとに、今後、日本ではどのようなアイデアやサービスが普及していくのか、探っていきたいと思います。
題して「教えて、湯田さん!」
導入までのカギとなる「課題」
高橋:湯田さん、前半では給与デジタル払いのメリットが理解できてよかったです。
湯田:ありがとうございます。
高橋:今後、企業に給与デジタル払いを導入してもらうために、企業や従業員側が使いたいと思うような、キャンペーンや宣伝も予想されますね。
湯田:おそらく、各事業者ともに戦略を立てていると思います。私たちがアッと驚くようなキャンペーンも出てくるかもしれませんね。
高橋:ことしの夏ごろには、こうした話題が増えてきそうですね。楽しみだな~。
湯田:ただ、給与がデジタル払いになることは、企業側にも負担が出てくるのは事実です。今日はその辺の話を詳しくしていきたいと思います。
高橋:お、いつもの湯田さんらしい切り返し。
湯田:Z Venture Capitalのフィンテック担当ですからね。あ、高橋さん。ちょっと目を瞑ってください。
高橋:はい。
湯田:(もそっ)お待たせしました。
高橋:(つけ外しなの…!?)
湯田:さっそくですが、企業側が給与デジタル払いを導入するまでに必要なハードルってどのようなイメージがありますか?
高橋:う~ん、イメージだと管理が大変そうです。例えば、給与のうち、Aさんは10万円分、Bさんは3万円分、Cさんは1万円分をデジタル払いでとなると、企業側での振り込みや管理の仕組みが複雑化しそうな印象があるなあ。
湯田:良いですね。確かに、スマホ決済事業者のアカウントへ振り込むための振込先と支払い金額の情報が追加で必要となります。
高橋:これって、数百人とか数千人とか従業員がいる企業は相当大変じゃない?
湯田:そうです。だからこそ、導入が始まる際には、主に2つのポイントが鍵を握ると思います。
①受け取り口座をシームレスに登録・管理・運用できること
②給与計算後、支払い先へのデータ連携をスムーズにできること
高橋:確かに。大事なポイントなのは分かるけど、そもそも日本ではことし4月に給与デジタル払いが解禁されたばかりでしょ?上手く応えられるサービスはあるのかな?
湯田:ここで、私たちも普段からよく言われている「成功事例から学ぶ」ことですね。今回でいうと、海外の企業の事例を見ながら、このヒントを探っていきたいと思います。
高橋:おお、海外の事例ですか?
湯田:はい。引き出しは多いほうが良いですから。では1つずつ見ていきましょう。
① Intuit(QuickBooks Payroll)
設立:1983/米国(マウンテンビュー)
時価総額:約1,255億USD(2023年4月21日時点)
URL:https://www.intuit.com/
高橋:この企業の特徴は?
湯田:Intuitは世界トップクラスの会計ソフトウェアソリューションを提供しています。その中でも、「QuickBooks」は、中小企業の会計プロセスを合理化するための強力なツールで、「QuickBooks Payroll」は、従業員の給与支払いや税金処理を自動的に行い、時間を節約することができるサービスです。
高橋:税金の処理まで自動でやってくれるんだ。
湯田:また、従業員の出勤や退勤時間の記録や福利厚生の管理ができて、一か所で給与支払いや人事管理を行うことができます。給与計算の方法は、こちらにも詳しく記載されていますね。
9つのステップで給与計算を行う方法 |クイックブック (intuit.com)
高橋:記事を読んだ感じ、週給や隔週給与、半月給、月給などの給与スケジュールが想定されていて、こうしたベースは日本の給与デジタル払いが始まったあとの仕組みの参考になりそうだね。シンプルに読みやすく面白い記事です。
湯田:良かったです。それでは、次はこちらです。
②gusto
設立:2011/米国(サンフランシスコ)
調達金額:$746M/シリーズE
URL:https://gusto.com/
高橋:イラストが素敵ですね。
湯田:gustoは、クラウドベースの給与計算、福利厚生、人事管理ソリューションを提供しています。
高橋:30万を超える企業がサービスを利用しているって、すごいですね。
湯田:gustoは中小企業を中心に、毎年数百億ドルの給与を処理しているとのことです。特徴として「自動化、統合、簡単な操作」があげられます。従業員のオンボーディング、給与計算、HR、福利厚生などの業務を一元的に管理することができることが魅力ですね。
高橋:一元管理の使いやすさか…HPのデザインだけじゃない魅力をひしひしと感じます。
湯田:では次は、給与計算に特化した企業も見ていきましょう。
➂Symmetrical.ai
設立:2019/英国(ロンドン
調達金額:$26M/シリーズA
URL:https://symmetrical.ai/
高橋:2019年設立のシリーズAの会社ですね。
湯田:Symmetrical.ai は、一言で言うとテクノロジーファーストの給与計算アウトソーシングサービスです。
高橋:テクノロジーファーストの給与計算アウトソーシングサービス?
湯田:給与管理を簡素化し、内部の人事、財務、運用プロセスを最適化するところまで見据えたサービスです。APIベースのプラットフォームを使用することで、管理者は国内だけでなく海外の従業員の給与、控除、臨時の支払いを承認して、データを関連する記録システムにルーティング可能です。
あと、従業員の契約にあわせて(フレックスタイム契約、派遣契約、標準契約など)自動的に総額から純額までの計算も可能です。彼らが抱える給与計算の専任チームがこのシステムを活用して、顧客に代わって給与計算の代行まで行ってくれるのが一番の特徴ですね。
高橋:TechCrunchにも取り上げられているんだ。なるほど。海外の従業員の給与を承認するって、データを統合することを考えると簡単なことじゃないんだ。給与計算業務を代行するチームも提供してくれるなんて、管理者に寄り添ったサービスだと言えるね。
湯田:まだまだいきますよ。次は特に給与計算に必要な”データ連携”に照準を置いたサービスです。
④Pinwheel
設立:2018/米国(ニューヨーク)
調達金額:$77M/シリーズB
URL:https://www.pinwheelapi.com/
高橋:この企業の特徴はなんですか?
湯田:給与、収入、雇用データにリンクしたAPIを提供しています。従業員がアプリを通じて自身の情報をコントロールできるのが大きな特徴です。アプリを通じて給与計算に必要なデータを簡単に取得でき、口座振替の切り替えや管理、所得、雇用確認が行えます。これらの給与データを通じて保険や融資のオプションを提供するなど、「金融機能」も付与してくれる企業ですね。
高橋:幅広い…!
湯田:口座振替を複数の口座に分けることもできます。また、給与の一部を定期的に貯蓄アプリに移動することも簡単に行えます。高橋さんもどうですか?
高橋:貯蓄は永遠の課題です。このサービスを使えば、湯田さんの給与を定期的に私の貯蓄アプリに移動することも簡単ですか?
湯田:では最後です。
高橋:はい。調子に乗ってすいません。
湯田:最後はこちらです。
⑤Argyle
設立:2018/米国(ニューヨーク)
調達金額:$77M/シリーズB
URL:https://argyle.com/
高橋:「Simply powerful payroll connections」のキーワードに惹かれますね。
湯田:キーワードの通り、企業が収入や雇用情報へのアクセスを迅速かつ費用対効果の高い方法で取得できる、給与接続プラットフォームです。
高橋:どんなことが期待できるの?
湯田:企業側がこのプラットフォームを利用することで、本人確認やバックグラウンドチェックの自動化、口座への入金、口座振替、保険料の計算、給与の前払いなどが簡単に行うことができます。先ほどのPinwheelと似たような価値提供をしていますね。
高橋:ArgyleのHPにも書いてあるように、1つのプラットフォームで多くのソリューションがあるサービスというのが、企業から選ばれるために、大切な要素なのかもしれないと感じました。
湯田:こうした海外のサービスやアイデアをもとに、今後日本でも将来的には既存のシステムで対応しきれない範囲をカバーするための特化型のサービスが生まれてくると思います。
高橋:この給与デジタル払いは継続して注目していきたいテーマですね。
湯田:これまで現金派だった高橋さんが、デジタル給与を受け取って、どう変わっていくかも楽しみにしています。
高橋:支払いのときもスマートですもんね。かっこいい大人に近づけるように頑張ります。
湯田:あ、そうだ。先月の飲み会で、高橋さんからまだ3,000円を支払ってもらってなかったような…いま支払ってもらっていいですか?
高橋:え。
湯田:大丈夫です。そのスマホのPayPayでスマートに支払えますよ。えへへ。
高橋)ひ、ひえ~。
メンバー紹介
〈話し手〉Z Venture Capitalインベストメントマネジャー湯田将紀
twitter:@yudamasak1
早稲田大学社会科学部卒業後、ヤフー株式会社に入社。2018年10月よりZ Venture Capitalに参画。フィンテック領域を中心とした投資を担当
〈聞き手〉Z Venture Capitalコミュニティマネジャー高橋翔吾
twitter:@takasho1222
立命館大学卒業後、2013年に記者として日本放送協会(NHK)に入局。約10年にわたり、NHK記者として行政や選挙取材などを担当。2022年9月よりZ Venture Capitalに参画