ぼくは美大に行きたかった
小学生の頃、「将来はイラストレーターになりたい」なんて言っていたことがある。
あの頃は絵を描くのが好きで、べつに上手だったわけじゃないけど、周りから「いいね」とか「上手じゃん」って言われると、妙にやる気になっていた。ほんと単純な子どもだ。でもイラストレーターがどんな仕事なのか、当時の僕は全然わかっていなかったと思う。
小学6年生の卒業式で、「将来なりたいもの」を一人ひとり発表する流れがあって、その時に選んだのがイラストレーターだった。
ポケモンやミニ四駆、遊戯王カードに熱中していた時期で、塾にも通っていて私立中学へ進む予定だったのに、なぜかイラストレーター。「未来」って言葉をちゃんと理解していない子どもには、そんなもんだろう。
実際、その夢を引きずって大学進学を考える頃には美大も視野に入っていた。成績はそこそこ良くて、関西学院大学への推薦も利用あったし、少林寺拳法では団体と個人で全国一位を取ったから部活の推薦枠もあった。
いわゆる文武両道な人間だった。「じゃあ、美大に行くか」なんて思い立って、美術の先生が主宰するデッサン教室に1年ほど通って、そこそこ描けるようになった。中くらいの美大なら4月の時点で合格可能性が見えていたらしい。
ところが4月になって改めて考えた。美大に行っても美術系の就職は難しいかもしれない。
僕は手堅く進めるタイプで、あまりギャンブルはしたくない性格が表面化した。少林寺拳法を続けられる関西外国語大学への推薦に切り替えた。うん、堅実だなあと我ながら思う。
結果的に、就職活動では不安定な時期を過ごして20代は6社も転々とするわけだけど。
美術への未練がないわけじゃない。今でも暇になったら学校で学びたい気持ちもある。でも、もう描かない。趣味でデッサン始めても1週間で飽きるし、考えてみたら僕の頭はすっかり「商売人」にシフトしてしまった。
「お金にならない創作」をやる気が起きない。創作そのものは好きかもしれないけれど、金にならないなら気が進まないという困ったおっさんになってしまった。
このエッセイだって、趣味といいつつXでフォロワーに自己開示してファンを増やし、ビジネスにつなげようとしている面がある。一石二鳥、できれば三鳥くらいを狙わないと気が済まない。
小学生の頃、何も考えず「イラストレーターになりたい」と無邪気に言っていた自分を思い出すと、今の自分はずいぶん色気づいたなあと思う。時代も変わるし、人も変わる。
あの頃は「未来」を実感せずに口にしていた夢も、今じゃ「未来」を意識しすぎて計算してしまう。どっちが幸せなのかは、わからないけれど。幸せにすらあんまり興味がないので、快適だから、まぁ良しとしてる。
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