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ダニのにおいと新年の空気
年が明けて、みんなそろそろお正月気分を抜け出し始めるころ。
なんだけど、うちではいまさら大掃除をしている。といっても、ちゃんと年末には大掃除をしている。ほとんど妻がやってくれたんだけど、ウチはそもそも結構キレイだ。
ただ、いつの間にか電子レンジの温まりが悪くて、なんとなく妻が下を覗いたら埃がもりもり。
ああ、そういえば3年くらい放置してたんだった。これはさすがに掃除しないわけにはいかない。
「おいしょ…」
電子レンジをずらして、僕がちょっと持ち上げる係をやる。妻はマスク姿でダイソンのブラシをセットして、「お願いしまーす」と宣言する。
ゴォーッという勢いのいい音が、キッチンに響く。窓を開けているけど、土日の昼間だし大丈夫だろう。
「うわぁ、すごいホコリやな」妻が少し引きながら笑いながら言う。僕も「うわぁ」と顔をしかめる。
うちは二階建て6世帯だけの小さなマンションの2LDKに住んでいて、3年前の2月に豆柴のお茶子を飼うために引っ越してきた。
ちなみにソファは確かそこそこ値段がしたはずだけどほとんど使っていない。お茶子を飼う予定がない時に購入したもので、今はぬいぐるみが飾りつけられている。
あと、なぜかキッチンだけ狭いのが惜しい。
妻はときどき「もうちょっと広かったら料理も楽やのに」と言う。料理をしない僕でさえ狭いから広くしたいと思うくらい、狭い。家は広いのになぜかキッチンだけが狭くて2人でウロウロするには無理がある。
で、そこに角に電子レンジは置いてある。
ダイソンを動かすたびに舞い上がる埃が、甘いような、妙なにおいを放つ。聞けばダニの死骸の香りだとか。布団を干したときにふわっと感じる「あのにおい」が、そうらしい。
意外と気になるけれど、知らなければよかったと思うのは毎度のことだ。埃を取られる電子レンジの下からは、3年間分のいろんな何かが出てきている気がする。
最近は寒いせいか自律神経が乱れていて、僕自身もあまり外に出られない。電車に乗るだけでも当日になって「やっぱり無理かも」とキャンセルすることがある。
旅行しても結局、泊まって帰るだけで、観光する余力はゼロに近い。でもまあ、こういう生活にも慣れたといえば慣れたし、いつかもう少し動けるようになったら、そのときはお茶子も連れてどこかのドッグランに行きたい。そういう希望がゼロじゃないだけ、まあいいかと思う。
「終わったー」
妻がダイソンの電源を落とし、ホコリまみれのブラシを片手に立ち上がる。僕も電子レンジを元の位置に戻してひと息ついた。部屋の空気は窓を開けてた割にはちょっと埃っぽさが残ってるけど、なんとなくさっぱりした気分だ。
こんなふうに、妻とどうでもいい会話をしながら、ときどきお茶子の暴走を見つめながら、掃除が終わったら昼寝して。それで気が向いたら少しだけ仕事して。
そんな“適当な日常”をもう少しだけアップデートしていけたら、まあそれでいいかなと思う。
無理に頑張ったって続かないし、いまはこれで十分。埃だらけだった電子レンジみたいに、僕自身もたぶんどこかでホコリを溜めてるけど、ちょっとずつ吸い取っていけばいい。
そんなふうにぼんやり思いながら、ブラシに溜まった埃の塊をゴミ袋に捨てる。期待外れのドラクエ3を惰性でプレイしつつ、書初めして遊んで、今日はそれでおしまいかな。あとはダラダラ。
何か始めたい人には物足りないかもしれないけど、まあ、こういうのも案外悪くないもんだ。
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