【オペラ日記 13】初オペラには世界最高峰の演奏を – 英国ロイヤル・オペラ&METオーケストラ来日公演
「初めて観るオペラはどんなものがいいですか」というご質問には、いくつか答え方があると思います。
演目で言うなら、よく上演されていて単純に泣ける「椿姫」(ヴェルディ作曲)、「ラ・ボエーム」(プッチーニ)などがいいとはよく言われるでしょうが、これはどちらもはかない女性の人生が描かれていますので、決め付けはよくないものの、女性の方がより感情移入しやすいかもしれませんよね。娼婦やパトロンなどが出てくるので、まだそういった社会背景の理解が難しいお子さんには不向きでしょう。
子ども向けだと、ファンタジー要素のある「魔笛」(モーツァルト)や「トゥーランドット」、ほんわかラブストーリーの「愛の妙薬」などがいいかもしれません。「セビリアの理髪師」(ロッシーニ)もドタバタコメディが楽しい。これらはもちろん大人にもおすすめです。
ジェンダーを超えて大人に気に入ってもらえそうな演目だとどうでしょう。人それぞれ興味の方向性が違うので言い切ることは難しいですが、社会の不合理やままならない人生などの人類の普遍的テーマを描いた作品でしょうか。例えば、「リゴレット」(ヴェルディ)、「アイーダ」(ヴェルディ)などが挙げられると思います。モーツァルトなら、「フィガロの結婚」の音楽は天国的に美しいですが、細かなストーリーが複雑で、初めて観て理解するのは厳しいかもしれないので、「ドン・ジョヴァンニ」の方がストーリーがはっきりしていていいかもしれません。
でもやっぱり歌手にも注目
といいつつ、初めてのオペラの演目は確かに大事なとはいえ、私はやはり、まず素晴らしい歌手で聴くというのも外せないポイントだと信じています。世界のトップに君臨する歌手というのはやはりすごいので、その声にどんな魅力があるのか聴いてみてほしいと思います。逆にそうした歌手でも何とも感じないということであれば、もしかしてオペラの楽しみはそんなにお好みではないのかもしれません。
6月には、世界5大歌劇場より2つが来日します。招かれている歌手も超一流です。初心者だからもったいないなどと言わず、初めてだからこそ究極の演奏に接していただきたいな、とオペラファンとしては思います。
英国ロイヤル・オペラ 来日公演
英国ロイヤル・オペラはすでに来日中。昨日(6/22)から公演が始まっています。オーケストラや合唱、舞台美術ごと持ってきた演目は、「リゴレット」と「トゥーランドット」で、先に紹介した通りどちらも演目としては面白いです。
私としては、一推しのアメリカ人ソプラノ、ネイディーン・シエラ嬢の出演する「リゴレット」をおすすめしたいです。
初日の本番前に「リゴレット」の一節でのウォームアップを見せてくれていますが、この哀愁溢れる美声での歌い回しがホールに響き渡ったのは間違いないです。相手役のテノール、ハビエル・カマレナとは共演が多くて相性もバッチリですし、私も来週早く聴きたいです。こんな素晴らしい歌唱はそうそう聴けないので、この貴重な機会を日本の聴衆の皆さんに逃さないでほしいです。
METオーケストラ来日公演
もう一つの注目が、こちらもすでに来日中で、同じく昨日(6/22)から兵庫での公演が始まっている、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)オーケストラです。METの日本での公演は実に13年ぶりで、こちらも貴重な公演です。
いわゆる舞台美術付きのオペラ公演ではなく、オケのみの演奏とオペラ歌手との共演が組み合わされたプログラムです。こちらも、まずは女性歌手に注目です。
プログラムAで、一幕もののオペラ「青ひげ公の城」(バルトーク)を歌う、ラトビア出身のエリーナ・ガランチャは、現在世界最高のメゾソプラノと言えるでしょう。2022年に新型コロナが下火になった頃に来日リサイタルがあり、数度の延期の末にやっと聴けたのですが、世界一の名に違いない歌唱でした。私はイタリア・フランスオペラを中心に聴くのでそれ以外の言語の曲は詳しくありませんが、ロシア語やドイツ語などの歌が多く、何の歌かよく知らないのに、素晴らし過ぎてただただ涙が止まらない、という体験をしました。彼女の歌が聴けたことに感謝しかありませんでした。力のある歌手の歌は、人の心をわしづかみにできるのだと思い知りました。いい歌って心の琴線に触れやすい。私だけかもしれませんが。
ガランチャのMETでの映像に適当なものがなく、こちらは別のコンサートからの映像ですが、本物はこの100倍よいです。ソプラノにはない中低音の充実した究極の美しい歌の響きを、ぜひ生で体験してください。
プログラムBに出演するリセット・オロペサも、世界の歌劇場に出ずっぱりの人気アメリカ人ソプラノです。軽やかな声のソプラノの第一人者で、演奏予定である技巧的に激ムズのモーツァルト作曲のコンサート・アリア(コンサートで歌われる独唱曲)のような曲は得意です。
オロペサの同ツアーの韓国公演からの映像(4枚目)、モーツァルトのアリアは爽快感がありますね。衣装もいつもファッショナブルで楽しみです。
舞台美術がない分、ストーリーの理解と言う点ではハードルが上がるのですが、純粋にオペラの声と音楽の魅力を確認できる機会です。
昨今の円安もあって、こうした世界に名だたる歌劇場の来日公演チケット代はどんどん上がってしまっているのは事実です。どちらもチケット代を見たときには、オペラファンでも仰天しました。この2つの歌劇場の来日時期がまるかぶりしてしまったのも、残念ではあるのですが、いっぺんに聴ける機会もそうそうないので、興味が湧いた公演にぜひおでかけください。しばらく大きな歌劇場の来日予定は聞こえて来ないので、この機会がおすすめですよ。
オペラはネタバレ上等ですので、あらすじと見どころはwikipediaなどで必ずチェックして出掛けてくださいね。その方がずっと楽しめます。