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【オペラ日記 11】6月に2つの映画版が観られる、長崎が舞台のオペラ「蝶々夫人」

オペラをせっかく観るなら、世界で有数のレベルの公演を観て、オペラの世界感と興奮にどっぷりつかっていただきたいところですが、オペラ公演は大がかりですし、昨今の円安により、特に海外の歌劇場による日本への引っ越し公演のチケット代は価格上昇が止まりません。

大枚をはたかなくても、最近は海外のオペラ公演を、公演日からほどなくして、数千円で日本の映画館でも観ることができます。この2024年6月には偶然にも、日本に縁があるならタイトル位は馴染みであるであろう、プッチーニ作曲「蝶々夫人」が2本立て続けに上映されます。

英国ロイヤル・オペラの「蝶々夫人」が6/7(金)から、そして、メトロポリタンオペラ(ニューヨーク)は6/21(金)から全国の映画館で上映ですが、主役の蝶々さんは同じ歌手で、アスミク・グリゴリアンです。グリゴリアンはリトアニア出身で、世界の歌劇場で人気急上昇中のソプラノ歌手です。今週5/15と17には、東京でも日本で初めてのリサイタルが開催されます。

「蝶々夫人」あらすじ
舞台は日本の長崎。武家である実家の没落で、今は芸者として身を立てている蝶々さんが、アメリカ人将校ピンカートンと結婚をする。蝶々さんはキリスト教に改宗までして親族とも決別して結婚を決意した。しかし、ピンカートンの方は蝶々さんの可憐さを愛でているものの、一時の現地妻に過ぎないと思っており、しばらく一緒に暮らした後アメリカに帰国する。蝶々さんはピンカートンが去った後に生まれた子どもを育てながら、言い寄る他の男性を遠ざけて暮らしている。
3年後、やっとピンカートンが長崎に帰ってくると、蝶々さんは胸を高鳴らせて彼を待っている。しかし、蝶々さんのところにやって来たのはピンカートン自身ではなく....。全てを理解した蝶々さんはどうするのか....。異なる文化のはざまに落ちた、二人の思いのすれ違いが、悲劇を生む。

英国ロイヤル・オペラ「蝶々夫人」

私は、「蝶々夫人」が苦手です。そもそも、お涙ちょうだいっぽいプッチーニのオペラ全般が苦手です。プッチーニのオペラはオーケストラの編成が大きく、歌手も大音量の劇的な声が要求されるので、大味(失礼!)な歌い回しに聴こえることが多く、好みでないのです。そして、プッチーニが好んで設定するのが、好きな男性のために犠牲を払う女性、耐える女性...。出てくるキャラクターも好みでありません。

それでもあえて今回映画館で観ようとしているのは、3/30にロンドンの現地で、ロイヤル・オペラの「蝶々夫人」を鑑賞したからです。日本から到着したその日の夜しか予定が合わなかったので、バタバタと劇場入りして、時差ボケがつらい鑑賞でしたが、蝶々さん役のグリゴリアンがとってもよかったので、行った甲斐がありました。

蝶々さんは第一幕では15歳の設定ですが、前述した理由から野太い声の歌手が歌う場合が多く、可憐な娘には見えないことがほとんどです。もともとの設定に無理がある訳なのですが、グリゴリアンの場合はパワフルであっても、美しい声で歌い回しができる能力の持ち主なので、これまでで一番かわいげを感じた蝶々さんだったと思います。10代に見えるかと言えば厳しいかもしれませんが、メロディーをしっかり感じる繊細な歌いぶりの蝶々さんというのは滅多に聴けるものではなく、貴重な体験でした。

ロイヤル・オペラ・ハウス「蝶々夫人」紹介映像

ロイヤル・オペラの「蝶々夫人」の舞台は、ミニマルなセットに衣装もシンプルで、ドラマに特化したすっきりした作りでした。席はStalls Circleという一階の脇の、平土間より少し高くなっているエリアで、よく見えました。ロイヤル・オペラは座席数が2256席だそうで、東京文化会館大ホールの2303席とそれほど変わらないのですが、席がぎゅっとつまってまとまっていて、どこからも観やすい感じがします。舞台からより近い感じがして、演者や音楽との一体感を感じやすく、ここをホームに鑑賞されている方々が大変うらやましいです。

収録日は私の鑑賞日とは少しずれていますが、映画館で観て、もう一度細かいところを確認して復習をしたい、と思っています。

メトロポリタンオペラ「蝶々夫人」

ニューヨークのメトロポリタンオペラ(MET)の場合は、同じアスミク・グリゴリアンが主演といえ、アンソニー・ミンゲラによる幻想的な演出で、雰囲気がだいぶ異なります。

「蝶々夫人」は日本が舞台のオペラで、「さくらさくら」などのメロディーが途中に挿入されていたり、日本の文化がストーリーに反映されていたりして、日本の人には馴染みある部分がある反面、一部の歌詞やシーンに違和感を感じたりします。衣装や舞台セットも、「何となく日本」みたいなものだと、どうもモヤモヤしてツッコミたくなってしまう。ですので、日本の雰囲気は醸し出されているけれども思いっきり幻想的な演出だと、日本文化に詳しい人にしてみると、小さな違和感を超えて、オペラ自体を楽しめるように思います(それでもツッコミたいことはいろいろとあると思います😆)。蝶々さんの小さな息子役は文楽へのオマージュなのでしょう、黒子たちが動かす人形が務めています。

グリゴリアンは両親ともオペラ歌手なのですが、母がグリゴリアンを妊娠中にMETの舞台で「蝶々夫人」を歌って、父と共演していたとのことで、METや「蝶々夫人」には特別な思い入れがあるそうです(METでのインタビューより)。そういう意味でも、こちらも観る価値がある公演だと思います。

ピンカートンを信じて待ち続ける蝶々さんが歌う「ある晴れた日に」


日本に縁がある者として、20世紀初頭(初演1904年)の西洋から見た日本、それを現代で解釈する欧米の演出を通じた日本を見ることができる、「蝶々夫人」は一度は観てもいいオペラなのかな、と思います。せっかくのライジングスターが歌う「蝶々夫人」ですので、この機会に映画館にお出かけください。

私はロイヤル・オペラにしますが、あなたはどっち?どちらもでしょうか。

ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン「蝶々夫人」
2024年6月7日(金)~2024年6月13日(木)
https://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=madama_butterfly2023

METライブビューイング「蝶々夫人」
2024年6月21日(金)~6月27日(木)
※東劇のみ7/4(木)まで2週上映
https://www.shochiku.co.jp/met/program/5546/

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