【オペラ日記 10】没入感がハンパない、メトロポリタンオペラ 「ロメオとジュリエット」
5/10から上映しているMETライブビューイングの「ロメオとジュリエット」を観ました。ニューヨークでの今年3月の公演の映像です。
グノー作曲のフランス語のオペラですが、原作は言わずと知れたシェークスピアによる戯曲です。
というわかりきった筋ではあるのですが、オペラはそのロマンティックさ、悲しさを倍増させるのが得意だと改めて実感しました。
ジュリエット役は若手実力派アメリカ人ソプラノ、ネイディーン・シエラ。すでに世界的なスター歌手で、METライブビューイングでもすっかりおなじみなりました。ロメオ役は、現在フランス人テノールで売り出し中のナンバーワンである、ベンジャマン・ベルナイムが、満を持してメトロポリタン歌劇場のライブビューイングに初登場でした。
今回の公演で特筆すべきなのは、何と言っても主役の二人でした。素晴らし過ぎて、まだ悲劇の予兆しかない前半から、私は感動の涙を流していた始末。近年でまれに見る理想的なロメジュリだったのではないでしょうか。ネイディーン・シエラ嬢は、10歳の頃からジュリエット役のアリアを練習してきたといいますし、彼女が駆け出しのときの声楽コンクールでもずっと歌ってきた得意な役です。対するベンジャマン・ベルナイムも、甘い声と美しい歌いまわしが特徴ですが、フランス人として母語であるフランス語歌唱の流れるような美しさを追及している歌手なので、このロメオ役には特にそれはもううっとりと聴き入ってしまいました。
二人とも声自体が文句なく美しいですし、歌唱技術が非常に高いので、どこも難しそうに聴こえることなく難なく全ての歌唱をこなしてしまいます。ですので、感情移入がしやすいのですよね。完璧な音楽だけでなく、圧倒的な没入感を観客にもたらします。ソプラノとテノールの高音は官能的だと言われます。アリア(独唱)もそれぞれ素晴らしかったですが、二重唱では二人のやわらかな声が溶け合って、とてつもなく美しいハーモニーが奏でられていました。二重唱の夢のような美しさにより、若い恋人たちの掛け合いによる赤面シーンにも入り込みやすく、しばし究極の純愛気分を味わえた観客が多かったのではないでしょうか。
ジュリエットのアリア(独唱)「私は夢に生きたい」
まだ本当の恋を知らないジュリエットが、恋に恋する気持ちを夢見心地で歌う
ロメオ(テノール:ベンジャマン・ベルナイム)のアリア 「太陽よ昇れ」。窓辺にジュリエットの姿を見たいと、彼女への恋心を歌う
メトロポリタンオペラの音楽監督である、マエストロ・ネゼ=セガン指揮によるオーケストラも、夢見るようなシーン、劇的なシーン、それぞれメリハリがついていて歌をサポートし、リズムも緩急自在でノリがよくて楽しめました。さすが、マエストロの母語のフランス・オペラはとりわけ得意ですね。
わかりきっているはずの悲劇的な最後も、シエラ嬢とベルナイムが紡ぐ美しい音楽に彩られ、涙が止まりませんでした。
シエラ嬢は来月、ロイヤル・オペラの「リゴレット」の公演のため来日予定です。最近更に圧倒的な歌唱なので、ますます生で聴くのがたのしみになりました。
「ロメオとジュリエット」は、一週間限定の全国での上映(東銀座の東劇のみ2週間上映)ですので、気になった方は映画館に急いてくださいね。