同棲未殺人事件

 あの時は本当にどうかしていた。いや、本当に、どうかしていた。何なら今もどうかしている。魔がさす、とはまさにこのことか。この国の法律は心理学を根拠に設計されているため、意識をコントロール出来ない状態にあったと判断される場合、減刑されます。

 ああ、違う、違う……。

「水は、(どの程度)あげるべきでしょうか」
「枯れちゃいますからね」
「土、土は」
「専用のものがよいでしょう」
「そうですか。この子を下さい」
「はい。この花は葉っぱが柔らかくて美味しいですから。虫に気をつけて」

「名前は一つじゃないといけないので、新種が発明されると、命名が大変ですね。鉢は6号がよいでしょう」

 まあ、それはそうですね。「2」という記号が「2、または、3を指す」という意味だと困るので。水が必要なのは、int型の変数にstring型のデータは入らないというくらい当たり前のことで、その。そういう事を訊きたかったわけではないのです。

 以前、バジルを分けてもらったことがありましてね。あの力強いハーブを枯らしたのは精神的に大きな打撃だったらしく、そいつがいた部屋の一角が目に入らない日が3ヶ月続き、「ああ、捨てなきゃ……部屋広いな……」と気付いた秋口。

 実のところ、そもそもじめじめした気候で一番元気な種らしくて、分けてもらった梅雨の時期が一番元気なのであり、あとはひたすら介護だったという真相があったとは言え。

 自分を養うこともままならないのに何故他の生き物を養うという愚かな決断をしてしまったのか。それは「植物で何か書け」という課題が課されたからだ。そうですね、これは直接の返答になっていない。

 ええとつまり、「植物で何か書け」と言われそう言われると植物というものをそもそも知らんなと植物園に行ったのだけど一口にやれダァリアだのやれ薔薇だのと言われても逐一随分形が違うしどの角度から見詰めてみても嗅いでみても少しも理解出来なかったのでより理解を深めるには時間的リソースを投じるつまり一緒にいるしかないと追い詰められた気持ちになり購入し一緒に生きる運びとなりました。

 名前はイングリッド・バーグマンさんです。

 朦朧とした意識で思うに、園芸というものは生物学やら土やら害虫やら日照やら気温やら湿度やら薬やら……つまりは諸自然科学一般に入門せねばならない流れなのでは? そして「あなたは蓮子のようだ」と言われたことについて考え込んでしまう。

 Lotus、ですか……。

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