⑨3分ドラマ脚本「ボクは今日、夢を諦めた」
▼登場人物
湯川快(27)(29)…社会人・元芸人
飯田哲平(36)…フリーター・元芸人
部長
▼本文
〇劇場・ステージ上
センターマイクの前で棒立ちになる、湯川快(27)。
快「…あの日、俺は夢を諦めた」
〇とある会社・オフィス内
仕事をしている、快(29)。
快NA「俺はあれから就職口を探し、正社員になった。特に何もない毎日。楽しいとも楽しくないとも思わない」
部長がやってくる。
部長「湯川~。今日から入ったバイトくん、飯田さん」
飯田哲平(36)がだらしない格好でやってくる。
哲平「おねがいしやす」
快「湯川快です、よろしくお願いします」
哲平に挨拶をする快。
快M「……こいつ…どっかで見たことあるような…てかこの歳でバイトかよ」
〇同・食堂
ごはんを食べている、快。
隣に哲平がやってくる。
哲平「さっきこの歳でバイトかよとか思った?」
快「……いえ」
舌打ちをし、去っていく、哲平。
快「…なんだよ」
テレビでは「流行語大賞特集」が流れている。画面には衣装を着て、一
発芸をしている哲平の映像。
快「…!」
〇同・廊下
歩いている、快。
快M「あの人も何か諦めたりしたんだろうか…」
快が立ち止まると、逆側の廊下に哲平の姿が見え、哲平の元に走っていく快。
哲平「…何だよ」
快「芸人だったんですね。俺も昔やってて」
哲平「……あっそ」
去ろうとする、哲平。
快「あの…!すみませんでした…!さっき。思いました。
この歳でバイトかよって。芸人辞めてから就職するのすごい大変だったのに、あの時自分が一番思われたくなかったこと、思う側になってて…
ホント俺、つまんないっすよね」
哲平「ああ、つまんねぇ。世の中全部な。
でも…お前、またやると思うぜ。お笑い。
どんなにつまんなくても売れなくてもあれは辞められるもんじゃねぇからな」
去っていく哲平。
快M「そうか…。俺は誰かにこう言って欲しかったんだ。『やめるな諦めるな』と」
哲平を追いかける快。
快「じゃあ…!今日から僕とお笑いやりませんか?」
(了)