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【医療用語】いまさら聞けない「経肺圧」【人工呼吸器】
はじめに
人工呼吸器を使用する患者さんの管理では、肺への負担を最小限に抑えることが重要です。その指標の一つに「経肺圧(けいはいあつ)」があります。
これは、肺を膨らませる際にかかる圧力を示すもので、特に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)患者の管理で重要視されています。
この記事では、経肺圧の基本的な考え方や測定方法、人工呼吸器の設定にどのように活かされるのかを、論文ベースの情報をまとめ、噛み砕いて編集しました。
経肺圧とは?
経肺圧の基本的な定義
経肺圧とは、「気道内圧」と「胸腔内圧」の差を指します。簡単にいうと、肺そのものが受けている圧力です。
経肺圧の計算式
経肺圧 = 気道内圧 - 胸腔内圧
経肺圧が適切に管理されることで、肺が過度に膨らんで損傷するのを防ぎ、逆にしぼみすぎることで酸素を十分に取り込めなくなることを防ぐことができます。
なぜ経肺圧が重要なのか?
人工呼吸器の管理では、肺が過度に伸びると「肺損傷」を引き起こし、逆に適切に膨らまないと酸素の供給が不足してしまいます。特にARDSの患者さんでは肺が固くなっているため、適切な圧力管理が必要になります。
経肺圧の測定方法
直接測定は難しい?
胸腔内圧を直接測定するのは難しいため、臨床では「食道内圧(esophageal pressure)」を代用して測定します。これは、鼻や口から細いカテーテルを挿入し、食道内の圧力を測る方法です。食道は胸腔内にあるため、ここで測定した圧力が胸腔内圧の目安になります。
経肺圧を活用した人工呼吸器設定
経肺圧の測定によって、人工呼吸器の設定をより適切に調整することができます。例えば、呼気終末持続陽圧(PEEP)の設定に役立ち、肺胞の虚脱を防ぐことができます。
経肺圧に基づく換気設定
ARDS患者の管理
ARDS患者では、経肺圧を25 cmH2O以下に保つことが推奨されています。これにより、肺への負担を減らしながら適切な換気を維持できます。
また、
低一回換気量(6mL/kg以下) → 肺の過伸展を防ぐ
低プラトー圧(30cmH2O以下) → 肺損傷を防ぐ
適切なPEEP設定 → 肺胞の虚脱を防ぐ
といった管理が重要です。
新生児への応用
新生児のARDS患者でも、経肺圧を考慮した換気管理を行うことで、体外式膜型人工肺(ECMO)を回避できる可能性があります。新生児の肺は特にデリケートなため、圧力管理がより重要になります。
経肺圧モニタリングの臨床的意義
経肺圧のリアルタイム測定
経肺圧モニタリングを行うことで、患者さんの肺メカニクスを理解しやすくなり、人工呼吸器の設定をより適切に調整できます。
肺保護換気戦略との関連
経肺圧のモニタリングは、特にARDS患者の「肺保護換気戦略」において重要な役割を果たします。
経肺圧を0 cmH2O以上に維持 → 肺胞の虚脱を防ぐ
自発呼吸を温存 → 肺リクルートメント(肺胞の再開放)を促進
患者ごとの個別化された設定 → 一律の設定ではなく、患者ごとに調整
まとめ
経肺圧は、人工呼吸器管理において重要な指標であり、特にARDS患者の肺損傷を防ぐために活用されています。食道内圧を測定することで間接的に評価でき、適切なPEEP設定や肺保護換気戦略に役立ちます。
参考ソース
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[2] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/24/3/24_24_332/_pdf
[3] https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/files/public/11/117796/20221202155155341462/sam_78_3-4_115.pdf
[4] https://jpccs.jp/10.9794/jspccs.40.121/data/index.html
[5] https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-17K11605/17K11605seika.pdf
[6] https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000929124.pdf
[7] https://www.imimed.co.jp/int/seminar/14jsicm-41th-avea-report/
[8] https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.3101202858
[9] https://gakken-mesh.jp/ce/202004/01_CE30_749-776.pdf
[10] https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.3102201151
[11] https://gakken-mesh.jp/ce/202004/01_CE30_749-776.pdf
[12] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/25/4/25_25_243/_pdf
[13] https://www.imimed.co.jp/int/seminar/14jsicm-41th-avea-report/
[14] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcm/38/2/38_106/_pdf/-char/ja
[15] https://www.jsicm.org/ARDSGL/ARDSGL_part2ALL.pdf
[16] http://www.igaku.co.jp/pdf/2302_resident-03.pdf
[17] https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/10/JCS2017_fukuda_h.pdf
[18] https://www.jspu.org/medical/books/docs/bestpractice_mdrpu.pdf
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