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忘れられないシチリアの街の食堂

今日はまた一つ、最高のレストランに出会ってしまった。シチリア滞在の最終日、カターニアの中心街にある魚市場から入ったところにあるトラットリア。

たまたまGoogleマップで見つけて、前菜がビュッフェ形式で食べられると見て、貴重な一食をここに捧げようと訪れた。前菜盛り合わせはシチリア料理では大定番のなす料理の数々、オムレツ、オリーブや片口イワシの塩漬け、新鮮なサラダが並ぶ。メインも頼むんだから食べすぎないように、と思いながら小さな皿にぎゅぎゅっと盛り付けた。

メインはパスタか、グリルした魚や肉のどちらかだ。悩んでいるときに目の前から手を黒くしたおじさんが厨房からでてきて「炭火で焼いてくれるんだ!」とピンときた。それは炭火焼きでしょうとカジキマグロと海老二匹を注文。私以外誰も店にいなかったので、厨房を見せてくれないかとお願いしたら、「当たり前だろ、見に来い」という感じですぐに厨房を覗かせてくれた。

網の間に具材を挟み、ちらちらと音を立てて焼ける赤い炭火の上に置いた。その上から軽く塩を振り、しばらく焼いていく。焼けていく具材を眺めているだけで、私の中の食いしん坊魂が震えるほど喜んでいるのを感じる。網をひっくり返すとこんがりと焼き目がついている。

おじさんの真剣な眼差しと、指先で焼き加減を確認する姿が、私のお腹を一層空かせた。おいしいものを作りたいという気持ちに溢れた人が、私は大好きだ。

よい頃合いで皿に盛り付け、イタリアンパセリ、オリーブオイル、レモンを盛り付ける。なんとシチリアらしい盛り付け。レモンはまだ青みが残っていて、酸味がしっかりとした果汁だろう。きっと魚介に合う。

おじさんから直接皿をもらい、テーブルに座り、レモンにフォークを刺して果汁を絞る。爽やかなレモンの香りがぱっとひらく。


カジキマグロを一口食べると、弾力がありつつも柔らかく焼けていて、噛むほどに穏やかな旨みが口に広がる。臭みは一切なく、レモンと相性抜群。海老は冷凍していたものを焼いたからか、外の殻はしっかり焼けているのに、ほんの少しレアでしっとりした焼き加減。泣きそうになるほどうまい。

メインに心を奪われてすっかり「前菜」ではなくなってしまった前菜も同時に食べていく。くったくたのなすは油が染み込んでいて、大衆食堂で愛される味をしている。特に、揚げたなすを酸味のあるトマトソースで味付けした料理が気に入った。食べていると、ホールのおじちゃんに声をかけられ「その上等なカメラで厨房の兄ちゃんたちを撮ってあげてくれ」とのこと。もちろん喜んで。

ひょこっと顔を出した兄ちゃんたちがかわいい。食べ終わる頃にオーナーの奥さんらしい女将さんとすれ違ったので、おいしいと伝えようとすると、私が口を開く前からグーサインをして、「おいしいでしょ?」と自信満々。いい、大好き、こういうお店。店の中の人たちみんながいいキャラクターをしていて、近所にあったら毎週通うだろう。

おいしいのは言わずもがなだが、こんなにうれしいのはなぜだろうか。編集者の藤本智士さんが「観光はその土地や街にある『光を観る』と書くんだよ」と教えてくれたことがあるが、まさに私はシチリアの日常の光を見たのだ。海に囲まれたこの国では、炭火で焼いた魚や豊かな野菜の料理が日常的に食べられている。オープンで優しく、自分の国の料理が大好きな人たちが、レストランで働いている。シチリアという国の、日常の美しさに触れられたことが何よりも嬉しかった。


今年一年の旅の様子はインスタで発信中です。良かったら、見てみてください!
https://www.instagram.com/yucca88?igsh=bHljYTk3a3o3Z3g4

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山口祐加@自炊料理家
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