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【読書記録】電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる「調べ方」の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術 - 阿佐見 綾香

はじめに:電通プランナーが明かす「ヒットの秘訣」

マーケティングの世界で成功を収めるには、的確な調査と分析が不可欠です。本記事では、電通の現役戦略プランナー阿佐見綾香さんの著書「ヒットを作る調べ方の教科書」を紹介し、その核心に迫ります。

著者プロフィール:10年以上の実績を持つ電通のエキスパート

阿佐見綾香さんは、広告業界の巨人・電通で10年以上にわたり戦略プランナーとして活躍してきました。その豊富な経験と知識を基に、ヒット商品を生み出すためのマーケティングリサーチの極意を本書で明かしています。

本書の特徴:電通の秘伝を凝縮した実践的ガイド

「ヒットを作る調べ方の教科書」は、電通のマーケティング部門で新人が必ず教わる基本技をコンパクトにまとめた一冊です。著者の阿佐見さんは、ヒット商品を生み出すための調査方法に特化し、そのプロセスを可能な限り簡略化しました。さらに、効率的な調査を可能にするオリジナルツールやテンプレートも本書で公開されています。

マーケティングリサーチの重要性:成功への近道

今日のビジネス環境において、適切なマーケティングリサーチは成功への近道と言えます。本書が強調するのは、以下の2点です。

  1. 正しいターゲットの特定

  2. 効果的なセールスポイントの発見

これらを早期に絞り込むことで、無駄な投資や労力を削減し、効率的にビジネスを成功に導くことが可能になります。本書は、この過程を体系的に解説し、読者が即実践できるようサポートします。

本記事の目的:核心を掴む4つのポイント

本記事では、阿佐見さんの著書から特に重要な4つのポイントに焦点を当て、詳細に解説していきます。これらのポイントを理解し実践することで、読者の皆さまも効果的なマーケティングリサーチを行い、商品やサービスの成功確率を高めることができるでしょう。

ポイント1:仮説から始める - 効果的なリサーチの第一歩

マーケティングリサーチを成功させるには、闇雲に調査を始めるのではなく、まず仮説を立てることが重要です。このアプローチは、調査の方向性を明確にし、効率的な情報収集を可能にします。

なぜ「とりあえず調査」は危険か

「とりあえず調査」は、時間とリソースの無駄遣いにつながる危険性があります。明確な目的や方向性がないまま調査を始めると、以下のような問題が発生する可能性があります。

  1. 膨大なデータの中で重要な情報を見逃す

  2. 不要な情報に時間を費やす

  3. 調査結果の解釈が困難になる

これらの問題を回避するためには、仮説を立ててから調査を始めることが効果的です。

3ステップで仮説を立てる

阿佐見さんは、効果的な仮説を立てるための3つのステップを提案しています。

  1. なんとなくの感覚で仮説を出す

  2. 仮説検証サイクルを回す

  3. 次の打ち手をチェックする

ステップ1:なんとなくの感覚で仮説を出す

このステップでは、直感的に感じる問題や本質的な課題を仮説として設定します。例えば、「商品の認知度が低いのではないか」や「ターゲット層のニーズと商品特性にミスマッチがあるのではないか」といった仮説が考えられます。

ステップ2:仮説検証サイクルを回す

仮説を立てたら、次はその検証を行います。デスクリサーチ、フィールドワーク、インタビュー、アンケートなどの手法を用いて情報を収集し、仮説の妥当性を確認します。このプロセスを繰り返すことで、仮説の精度を高めていきます。

ステップ3:次の打ち手をチェックする

検証された仮説に基づいて、次にとるべきアクションを検討します。例えば、「認知度が低い」という仮説が確認された場合、広告戦略の見直しや新たなプロモーション施策の立案などが次の打ち手として考えられます。

仮説立案の実践例:ドーリーウィンクの事例

阿佐見さんは、つけまつげブランド「ドーリーウィンク」のリブランディングを例に挙げています。売上が落ち込んでいた同ブランドに対し、電通チームは以下のような仮説を立てました。

  1. 派手なギャルしか使わないという古いイメージが残っているのではないか

  2. 装着が難しいという印象があるのではないか

  3. 過去10年間の進化が認知されていないのではないか

これらの仮説に基づいて調査を進めることで、効果的なリブランディング戦略を立案することができました。

仮説を立てることで、調査の焦点が明確になり、効率的かつ効果的なマーケティングリサーチが可能になります。

ポイント2:戦略リサーチのフレームワーク - 成功への道筋を描く

効果的なマーケティング戦略を立てるには、適切なフレームワークを用いて情報を整理し、分析することが重要です。阿佐見さんは、3C分析を基本としつつ、特に顧客分析に焦点を当てた戦略リサーチのフレームワークを提案しています。

3C分析の活用:市場を俯瞰する

3C分析は、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの要素を分析するフレームワークです。このフレームワークを用いることで、以下の点を明確にすることができます。

  1. どこで戦うか(市場の選定)

  2. 誰と戦うか(競合の特定)

  3. どのように戦うか(自社の強みの活用)

阿佐見さんは、特に顧客分析に重点を置くことを推奨しています。なぜなら、顧客のニーズや行動を深く理解することが、効果的な戦略立案の鍵となるからです。

顧客分析の重要性:ターゲットを知り抜く

顧客分析は、以下の3つのステップで行います。

  1. ターゲットの設定とボリューム把握

  2. ターゲットの精緻化(ペルソナ作成)

  3. インサイトの発見

ステップ1:ターゲットの設定とボリューム把握

ターゲットを設定する際は、以下の要素を考慮します。

  • 性別、年齢、ライフステージ

  • 価値観、行動パターン

  • 商品の利用頻度や状況

  • 購買までの意識の変化(認知→検討→購入→リピート)

これらの要素を組み合わせてセグメント化し、各セグメントのボリュームを把握します。

ステップ2:ターゲットの精緻化(ペルソナ作成)

ターゲットの解像度を上げるために、ペルソナを作成します。ペルソナとは、ターゲット層を代表する架空の個人像です。以下の要素を含めてペルソナを作成します。

  • 基本属性(年齢、性別、職業など)

  • ライフスタイル

  • 価値観

  • 行動パターン

  • 商品に対する態度

例えば、「28歳、独身女性、IT企業勤務、美容に関心が高く新しい商品に敏感」といったペルソナを作成します。

ステップ3:インサイトの発見

インサイトとは、顧客の深層にある本質的な悩みや欲求のことです。阿佐見さんは、以下の2つの視点からインサイトを探ることを提案しています。

  1. カテゴリーインサイト:商品カテゴリーに対する認識や悩み

  2. ヒューマンインサイト:商品に関係なく存在する普遍的な悩みや欲求

例えば、つけまつげの事例では、

  • カテゴリーインサイト:「つけまつげは面倒」

  • ヒューマンインサイト:「時間を効率的に使いたい」

これらのインサイトを組み合わせることで、「マツエクより便利なものがあるなら使いたい」という潜在的なニーズを発見し、「10秒マツエク」という商品開発につながりました。

カスタマージャーニーの活用:顧客行動を理解する

インサイトを発見したら、カスタマージャーニーを用いて顧客の購買プロセスを整理します。このプロセスで重要なのは、顧客の行動に影響を与える重要な瞬間(Moment of Truth)を特定することです。これにより、効果的なマーケティング施策を打つタイミングや内容を決定することができます。

戦略リサーチのフレームワークを適切に活用することで、顧客のニーズを深く理解し、効果的なマーケティング戦略を立案することが可能になります。

ポイント3:競合分析の新しい視点 - 視野を広げてチャンスを掴む

従来の競合分析では、同じカテゴリー内の直接的な競合企業にのみ注目しがちでした。しかし、阿佐見さんは、より広い視点で競合を捉えることの重要性を説いています。この新しいアプローチは、イノベーションの機会を見出し、独自の価値提案を生み出すのに役立ちます。

カテゴリーが異なる競合にも注目する理由

カテゴリーが異なる競合に注目することで、以下のようなメリットがあります。

  1. 新たな市場機会の発見

  2. 異なる業界の成功事例からの学び

  3. 潜在的な脅威の早期発見

  4. 革新的なアイデアの創出

2つの競合タイプ:顕在的競合と潜在的競合

競合分析を行う際、以下の2つのタイプの競合を考慮することが重要です。

  1. 顕在的競合:同じカテゴリー内の直接的な競合企業

  2. 潜在的競合:異なるカテゴリーだが、同じ顧客ニーズを満たす可能性のある企業

例えば、スマートフォンメーカーにとって、他のスマートフォンブランドは顕在的競合ですが、ウェアラブルデバイスメーカーは潜在的競合となる可能性があります。

ベンチマークの2つの視点

競合分析を効果的に行うために、阿佐見さんは以下の2つの視点でベンチマークを行うことを提案しています。

  1. 優れた点を自社に取り入れる視点

  2. 差別化のポイントを見出す視点

視点1:優れた点を自社に取り入れる

競合企業の成功事例や優れた取り組みを研究し、自社の製品やサービスに応用できる点を見つけ出します。ただし、単なる模倣ではなく、自社の強みと組み合わせて独自の価値を生み出すことが重要です。

視点2:差別化のポイントを見出す

競合との違いを明確にし、自社ならではの強みや特徴を見出します。これにより、顧客に対して独自の価値提案を行うことができます。

事例:カテゴリー横断的な競合分析

阿佐見さんは、以下のような事例を紹介しています。

  1. トヨタの女性向けカー用品ブランド開発

    • ユニクロのベーシックなアイテムの人気に着目

    • 「自分好みのアイテムと組み合わせても世界観を邪魔しないシンプルでベーシックなデザイン」というインサイトを発見

  2. 化粧品ブランドのパッケージデザイン刷新

    • 高級食品や宝飾品のパッケージデザインを参考に

    • 「贅沢感」や「特別感」を演出する新しいデザインコンセプトを創出

これらの事例から、カテゴリーを超えた視点で競合を分析することで、新たな価値創造の機会を見出せることがわかります。

実践のためのステップ

  1. 自社の製品・サービスが満たしているニーズを明確にする

  2. そのニーズを満たす可能性のある他カテゴリーの製品・サービスをリストアップ

  3. それらの製品・サービスの特徴、強み、弱みを分析

  4. 自社の製品・サービスに応用できる点や差別化のポイントを見出す

  5. 発見した洞察をもとに、新しい製品開発や既存製品の改善に活かす

競合分析の視野を広げることで、新たな機会を発見し、より革新的で競争力のある製品・サービスを生み出すことができます。

ポイント4:自社の強みを再確認 - 独自性を磨き上げる

競争が激しい市場で成功を収めるには、自社の強みを正確に把握し、それを最大限に活かすことが重要です。阿佐見さんは、自社の歴史や価値観を深く掘り下げることで、競合に真似できない独自の強みを見出し、それを商品開発に活かす方法を提案しています。

歴史から本質的価値を見出す

自社の歴史を振り返ることで、ブランドの本質的な価値や存在意義を再確認できます。以下のステップで自社の歴史を分析します:

  1. 創業の理念や原点を確認する

  2. 過去の成功事例と失敗事例を分析する

  3. 顧客からの評価の変遷を追跡する

  4. 時代とともに変化した点と変わらない点を特定する

事例:カルビーの「フライのポテト」

阿佐見さんは、カルビーの「フライのポテト」を成功事例として紹介しています。

  1. 創業の原点に立ち返り、100%国産じゃがいもにこだわる姿勢を再確認

  2. 製造過程にもこだわり、品質を最重視する価値観を再発見

  3. これらの要素を「フライのポテト」として商品化し、大ヒットを達成

このように、自社の歴史から見出した本質的価値を現代のニーズに合わせて再解釈することで、独自性の高い商品開発が可能になります。

インクルーシブマーケティングの提唱

阿佐見さんは、多様性を重視する現代社会において、インクルーシブマーケティングの重要性を強調しています。これは、特定の属性に限定せず、多様な人々のニーズに応える商品開発アプローチです。

インクルーシブマーケティングの特徴

  1. 多様な視点の取り入れ:開発プロセスに様々な背景を持つ人々の意見を反映

  2. ユニバーサルデザイン思考:できるだけ多くの人が使いやすい設計を目指す

  3. 社会的価値の創造:包摂的な社会づくりに貢献する商品開発

事例:ナイキのフライイースシリーズ

阿佐見さんは、ナイキの「フライイース」シリーズを好例として挙げています。

  1. 当初は障害を持つアスリートをターゲットに開発

  2. 手を使わずに履ける設計が、より広い層にも便利だと評価される

  3. 結果として、多様なユーザーに受け入れられるヒット商品となった

この事例は、特定のニーズに応えつつ、より広い層にも価値を提供できる商品開発の可能性を示しています。

実践のためのステップ

  1. 自社の歴史と価値観を深く掘り下げる

    • 創業者の理念、過去の成功事例、顧客からの評価など

  2. 現代社会のニーズと自社の価値観のつながりを探る

    • 社会課題と自社の強みがどう結びつくかを分析

  3. 多様な視点を取り入れた商品開発プロセスを構築

    • 異なる背景を持つ人々からフィードバックを得る仕組みづくり

  4. ユニバーサルデザイン思考を取り入れる

    • できるだけ多くの人が使いやすい設計を目指す

  5. 社会的価値と経済的価値の両立を図る

    • 包摂的な社会づくりに貢献しつつ、ビジネスとしても成功する商品開発

まとめ:効果的なマーケティングリサーチで成功を掴む

電通の現役戦略プランナー阿佐見綾香さんの著書「ヒットを作る調べ方の教科書」から、効果的なマーケティングリサーチの核心を探ってきました。

  1. 仮説から始めること

  2. 戦略リサーチのフレームワークを活用すること

  3. 競合分析の視野を広げること

  4. 自社の強みを再確認し、独自性を磨くこと

これらのポイントを押さえることで、的確なターゲティングと効果的なセールスポイントの発見が可能になります。特に、カテゴリーを超えた競合分析や、インクルーシブマーケティングの視点を取り入れることで、より革新的で社会的意義のある商品開発につながります。

マーケティングリサーチは、単なるデータ収集ではありません。深い洞察を得て、それを実際の商品開発や戦略立案に活かすことが重要です。本書の手法を実践することで、皆さまのビジネスがさらなる成功を収めることを願っています。

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