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次の次の次くらいに来るマンガ ◆ 水曜日の湯葉143

ジャンプTOONで『ぬのさんぽ』連載が始まりました。機械好きの中学生・サンポが宇宙生物・ヌノと出会い、地球の危機と立ち向かったり目覚ましを止めて二度寝したりする話です。

ジャンプ本誌にも予告が載った。うれしい

1年近く準備してきたので公開日はどうにも胃が痛く、PV数の変動を見守りながら眠れぬ夜を過ごした。東宝編集部の皆さんも同様のようで、午後には寝不足の顔をつきあわせて「この後どうやって盛り上げるか」という会議をした。

「従来のタテ漫画とは読者層が違うので、SNS露出が頼みになる」
「X公式アカウントで◯◯の部分を解説すると面白いのでは」
「そこは公式が言うと冷めるので読者に指摘してもらうほうがいい」
「それを待ってると機を逃すのでこちらから言うべき」

といった話を2時間くらいした。できれば読者の皆さんは『ぬのさんぽ』の面白い点をコメント欄やSNSに積極的に書いてほしい。我々の会議時間の短縮のために。これが働き方改革です。

↓ 作ったものの方針が定まらないXアカウント


エゴサでは「面白い」「かわいい」「ちゃんとSFをしている」といった感想のほかに「タテ漫画をはじめて読んだ」という感想がよく見られた。「苦手意識があったが読みやすかった」というのも多く頂いた。コマ割は作画の小津さんの担当だが、他のタテ漫画に比べてもかなり読みやすいように思う。コマの大きさや枠線の有無で緩急をつけて、リズム感を出しているのがいい。

『ぬのさんぽ』3話より


僕もタテ漫画をやるにあたって昔の代表的作品をいくつか読んだが、「読みづらい」という印象はたしかにあった。画面をべったり使いすぎてメリハリがなかったり、キャラの顔アップばかりで単調だったり、タテの移動距離が長すぎて指が疲れたりした。おそらくスマホ画面が3.5インチだった時代に作られた表現が、6インチの画面に合ってないのだと思う。

つまりタテ漫画は「スマホに最適化された新時代の漫画」と言いながらも「スマホの形が変わる」という宿命的リスクを抱えている。現代のでかいスマホならジャンプ漫画が普通に読めてしまうし、もう5年もしたら3つ折り横長画面が「普通のスマホ」になっている可能性もある。そうなったらタテ漫画の地位はかなり危うい。

また専用アプリでないと読めないので、アプリ外への露出を増やすのがかなり難しい。単行本も(一部例外を除いて)刊行されないし、SNSにも貼りにくいし、著名人への献本もしづらい。

『ぬのさんぽ』4話より

というわけで、「これからはタテ漫画の時代だ」という意見にはかなり疑問がある。ただ僕の小説家歴8年で「これから小説の時代が来るぞ」なんて言う人は一度も見なかったので、「将来性に疑問がある」というのはだいぶ希望の持てる言葉だ。

そもそもメディアの問題点なんてものは、コンテンツの面白さで全部なぎ倒せる。たとえば今の VTuber は「ただ顔を隠しているだけの配信者」などと揶揄されているが、それでもサブカルの一時代を築いている。これは「VTuber という技術・思想が面白いから」ではなく「面白い人が VTuber に集まっているから」である。

要は「タテ漫画は才能ある作り手が選ぶメディアなのか」である。僕はかつて講談社で『オートマン』という漫画の原作を担当させていただいたが、その経験から言っても、タテ漫画の長所は「読みやすさ」ではなく「作りやすさ」ではないかと思っている。これについて有料部分で軽く説明したい。

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