水曜日の湯葉 #30 新刊と新刊のご案内
新刊のおしらせ(1)。柞刈湯葉の6冊目の小説本『まず牛を球とします。』が、河出書房新社より7月22日に発売します。雑誌や Web などで公開した短編・掌編14本を収録。
第1短編集『人間たちの話』は「柞刈湯葉の正規直交基底」であったが、この第2短編集は「柞刈湯葉のランダム・ウォーク」というべきラインナップとなっている。
新刊のおしらせ(2)。有料枠で前々から言及していたように、こちらの note で不定期連載していた『SF作家の地球旅行記』が単行本化します。柞刈湯葉として初めてのノンフィクション書籍です。モントリオールから千葉県に至る世界各地の旅に、書き下ろしの架空旅行記「月面編」「日本領南樺太編」を含めて今秋発売予定。
書籍2冊の同時進行で死ぬかと思ったけど、秋から始まる新連載の準備に追われて今もって死にそうです。人生はいつだって死ぬまでの途中経過だ。
とはいえSF小説に続いて旅行記を出せることになったのは、思春期を椎名誠で費やした身としてはこの上ないヨロコビである。順当に行くと次は息子の育児エッセイということになる。急にハードルが上がったな。
6月29日 水
先日読んだアンソロジー『2084年のSF』で安野貴博さんに興味を持ち、デビュー長編『サーキット・スイッチャー』を読む。
完全自動運転が普及した近未来におけるテクノスリラーで、扱う問題がかなり現実的で、「完全自動運転の普及した社会」における課題をいい感じに1冊のストーリーに収納している。「SFを通じて未来社会を描く」とはつまり何なのか、と偉い人および偉そうな人に聞かれたら「実例をあげるとこういう話です」とスッと差し出そうと思う。
科学技術への誠実さは満点レベルなので、ここにエンタメ成分を上乗せするとしたらどうするか。過剰に風呂敷を広げたり設定に外連味を出すのはこの作品には似合わないので、キャラクターの火力を強めにすることになりそうだ。たとえば世界一のSF作家(僕調べ)であるアンディ・ウィアーは科学技術的にはきわめて真面目で、エンタメ小説が持つべきユーモア成分をすべて主人公1人の面白さに丸投げしているところがある。
『まず牛を球とします。』の帯文をどうするか、ということを編集さんと相談する。帯の紹介は本来は編集さんが決めるものなのだが、デザインのラフを見て「気軽に読める」と「衝撃の問題作」を並べるのはズレてるでしょと文句をつけながら代替案を出さないという最悪ムーブメントをかましてしまう。みなさん他人と仕事をするときは各領域について「丸投げ」か「全抱え」の2択にするべきです。半端な口出しは一番よくない。
6月30日 木
ここから先は
文章で生計を立てる身ですのでサポートをいただけるとたいへん嬉しいです。メッセージが思いつかない方は好きな食べ物を書いてください。