小説家もベストアルバムを出したい ◆ 水曜日の湯葉88[8/9-15]
8月9日 水
商業短編が1本完成。無人の宇宙探査機に搭載されたAIの一人称小説である。人間以外の一人称はたいへん書きやすい。人間は全体的に何を考えているかわからないが、人間以外はおおむね想像がつく。実際に合っているかは確かめようがないが、「自分はそういうのが想像できる」という妙な確信がある。
もう少し分析すると、「なんの目的で作られたか」がわかる物体は「なにを考えているか」がおのずと想像できる。これに対して人間は目的が存在せず、その思考はただの自然現象である。だから難しい。「砂漠の風はどこに吹くか」を想像するのは難しいが、「ロケットエンジンはどこに噴射するか」なら簡単だ。進路の逆向きである。
数年前までは「小説は短ければ短いほどよい」と思っていたのだが、最近は「1万字は短すぎないか?」と思い始めている。依頼されるテーマは多彩なので飽きないけど、話の構成に飽きてきている。1万字というのは何かデカい道具(ウイルスとかAIとか)を用意して「それが存在するシーン」を書いて終わりという尺だ。「それが紡ぎ出す物語」みたいなのはちょっと書けない。そろそろそういうのを書きたい年頃になってきた。
8月10日 木
AI一人称小説を提出。「不自然な改行がありますが、ChatGPT がたまにやるのを意識したのですか?」と指摘される。深読みがすごい。「ただのミスです。消しといてください」と返す。
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