信楽焼タヌキ・飛び出し坊や・ひこにゃん ◆ 水曜日の湯葉150
滋賀県の信楽に行った。タヌキの置物で有名な町である。
信楽は(滋賀県では珍しく)琵琶湖から離れた山の中にあり、JRから信楽高原鐵道に乗り換えて行く。運転士さんが「当車は新潟トランシス製のディーゼルカーです」とか「ここから33パーミルの急勾配をのぼっていきます」とかいったその道の人向けの説明をやたら仕込んでくる。平日の昼ということもあって、乗客はほぼお年寄り。
座席が満席なので前方窓の前に立つと、最前列に座っていたおじいさんに「そこに立たれたら何も見えないよ!」と言われ、すごすごと後ろに移動。すぐ運転士さんから「運転に支障がない限り、どこに立っていただいても構いません」というアナウンスが入る。「ほ〜ら僕が正しかったでしょう」と言って戻るのも気が引けるので、おとなしく最後部に立って去っていく線路を眺める。ディーゼルの薄い煙が尾を引いていく。
信楽駅に到着。ホームから既にタヌキの置物でびっちり。外に出ても道を歩いてもタヌキがみっちり。信楽で「タヌキを見たら即終了チャレンジ」をやったら到着1秒後に終わる。
このおびただしいタヌキは明治中期に作られ始めたもので、最初に作ったのは藤原銕造という人物であるらしい。世の中で伝統と思われている多くは意外と新しいので、我々がこれから「日本の伝統」を作り出せる可能性も十分にある。もう数年頑張れば「祠を壊すのが日本の伝統」と言い張れるかもしれない。
(※これを書いている頃に「祠を壊す」というネットミームが流行っていた。多分読み返すころには皆忘れてる)
駅では汽車土瓶が売られていた。むかしは駅弁のお茶と言えばこれで、のちに半透明のポリ茶瓶(美味しんぼでボロクソに言われてるやつ)を経て現在のペットボトルに至った。この土瓶が使い捨てというのは令和人には理解しづらいが、プラスチックを使い捨てるほうが理解しづらい時代も来るかもしれない。
陶器まつりの開催期で、半分路上みたいな場所でさまざまな陶器が売られている。茶碗や湯呑みと並んで「浮き玉」というのがあった。特にこれといった機能はなく、水に浮かべて楽しむものらしい。「こんな実用性のない焼き物があっていいのか……!」と感銘を受けたけどタヌキもそうだ。人類は意外と実用を求めない。
ひとしきり信楽を見終え、山を下って彦根へ向かう。
彦根城は日本に12城しかない現存天守(江戸時代から残っている城)である。入場券を買って入ろうとしたら「今から広場にひこにゃん出ますけど、見なくて大丈夫ですか?」と言われる。「ひこにゃんは城のPRキャラクターなんだから、ひこにゃんを見るために城を後回しにするのは本末転倒では」と思う。
天守の階段はたいてい「それで階段のつもりか?」というような急傾斜である。城主が暮らす御殿と比べてもあきらかに斜度がおかしい。これは天守が本質的に軍事施設だからであろう。ここにバリアフリーは求められない。
湖沿いに北上して長浜へ。ここには現存する日本最古の駅舎がある。滋賀にはいろんなものが現存している。琵琶湖じたいが世界有数の古代湖のひとつであるし。(普通の湖は土砂がたまって1万年くらいで消えるが、琵琶湖は400万年ほど前からある)
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