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半生が2つで人生、反省が2つでも人生 ◆ 水曜日の湯葉140

今週の反省 その1

行ったことのないラーメン屋に行った。玄関に「当店は現金のみです」という注意書きがあり「財布ちゃんと持ってきたっけ?」と一瞬だけ頭をよぎった。

普段は大小2つのカバンを使っている。外出先で仕事をするときはパソコンの入る大カバン、そうでないときは小カバンだ。このため、その日持っていったカバンに財布が入ってないことがままある。とはいえ最近の店はスマホ決済が可能なので、財布の存在感は相対的に低下している。帰るまでカバンに財布がないことに気づかなかったことさえある。

この日は午前中に大カバンを持ってスタバに行って原稿仕事を進め、午後に小カバンを持ってラーメン屋に行った。この際に「ラーメン屋は現金のみの店があるから」と大カバンから財布を出した。それは確かに覚えている。僕はそういう皮膚感覚の伴う記憶はわりとはっきり残るタイプだ。ということで、はじめて行く店としては標準的なラーメン普通盛りを頼み、文庫本を取り出そうと小カバンを開いたら、財布のあるべき内ポケットには何も入っていなかった。

なんで? としばらく考え、僕はたしかに大カバンから財布を取り出したが、それを小カバンに入れていないことに気づいた。なんだそりゃ。確かに自分の記憶のどこにも「小カバンに財布を入れた」とは書いていなかったが、自分に対して叙述トリックを仕掛けるな。

と思っていると、なんと隣の客も同じミスをしたらしく「財布を忘れたので家に取りに戻っていいですか?」と店員に尋ねた。店員は「身分証を置いて行っていただければ大丈夫ですよ」と言い、その客はカードケースらしきものから免許証を渡して店を出ていった。

さっきまで自分の不手際を猛省していた僕だが、これを見た瞬間に「隣り合った客2人が同じミスをしたとなると、これはもう仕組みの問題、つまりキャッシュレス対応していない店の責任では?」という気分になってきた。人が失敗談を共有したがるのは、同じ失敗が集まればその正当化が可能になるからである。少数派の失敗は個人のせいにされるが、多数派の失敗は社会のせいにできる。

店員に事情を説明し「家に帰って財布取りに行っていいですか?」と聞くと、「何か身分証になるものを置いていっていただければ」と言われる。免許証などは財布に入っているので、しかたなくスマホを渡す。財布もスマホもない、あらゆる決済手段のない無能力人間として急いで家に向かうと、取り出した財布はきっちり机の上に置かれていた。


今週の反省 その2

このところ冷蔵庫の調子が悪い。開閉に使う磁石が弱っているのか、閉めたつもりなのにちゃんと閉まっていないことがある。

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