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何の必然性もなく野良キョンの大群がやってくる ◆ 水曜日の湯葉113

NASA が出した宇宙太陽光発電の試算を読んだ。宇宙空間に太陽光パネルを浮かべて発電し、その電力をマイクロ波で地球に送るという技術である。宇宙なので昼夜の区別もなく発電ができるし、雲を貫通する波長で送るので天候にも左右されない。つまり太陽光発電の致命的弱点である不安定性をカバーできる「夢の技術」である。現実味が薄いという意味の夢でもある。

人類はいまエネルギー問題について「事故ると危険な原発」と「事故らなくても危険な火力」と「不安定で量も足りない再エネ」という最悪の3択クイズを突きつけられ、どれを推進しても人格攻撃されるゴミ溜めのような言論環境にいるが、宇宙太陽光発電であればそれらのいいとこどりができる。そんなものが実用化されないのは政府や石油メジャーの陰謀とかではなく、ふつうに初期費用が高すぎるせいである。

いま宇宙空間にある最大の人工物はISS(国際宇宙ステーション)で、これはサッカー場くらいの大きさである。当然ロケットには乗らないので、部品を少しずつ打ち上げて完成に15年を要した。ところが宇宙太陽光発電の衛星は、重量はISSの数十倍、パネルの総面積は東京都千代田区くらいある。それでようやく発電量2GW(火力発電所1基分)なので、火力発電所をなくすためにはこれを何百基も浮かべる必要がある。いくら地球のためとはいえ、ちょっと頭がクラクラする話である。

NASA の試算は2040年ごろから建設し、2050年代に稼働するとしている。日本政府の掲げる「2050年のカーボンニュートラル」には到底間に合わないが一旦脇に置く。この衛星を打ち上げ、運用し、廃棄するまでの費用を計算すると、kWh あたりのコストは地上の太陽光発電や風力発電に比べて、数十倍コストがかかり、CO2排出量は同程度とのことであった。ありゃりゃ。

ただこれは悲観的な条件での試算であり、たとえばロケットの打ち上げコストは1kgあたり1000ドル(量産効果で850ドル)としている。現時点で Falcon Heavy が1500ドルであることを考えると、ずいぶん控えめな未来予測だ(イーロン・マスクは将来的に10ドルで行けるとイキってる)。また衛星の寿命を10年としており、これは一般的な静止衛星よりも短い。「こんなデカい衛星なにかしらトラブるだろ」とのことだ。

NASA はこれとは別に「いろいろ上手く行った場合」も算出している。ロケットが500ドルまで下がり、より効率のいいパネルが開発され、衛星も15年稼働し(中略)た場合、地上の再エネと同程度のコスパになる、としている。楽観視してもそのレベルかよと思うが、地上の再エネは「低コストでできる」というより「低コストな場所にしか建てない」だろうから、世界中の電力を再エネでまかなおうと思ったらおのずと単価は上がるだろう。

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