弘前は疑問に答える都市である ◆ 水曜日の湯葉116[2/21-27]
2月21日 水
新作小説の完成原稿を新潮社に提出し、「自由だ〜〜〜〜」とJR東日本のフリーパスを片手に日帰り旅行を敢行。フリーパスなら遠いほどお得、というしみったれた動機で青森県弘前市へ。
暗いうちから家を出る。やたら寒い。新幹線はやぶさに乗って新青森で乗り換え、昼前に弘前に着く。もっと寒い。最高気温は0℃。冬の旅のいいところは露骨に寒暖差があることだ。夏は日本中どこでも暑い。
とりあえずお腹がすいたので、食べログで一番上にあった店で「津軽そば」という観光客向けらしいメニューを食べる。模範的な観光客ムーブメント。麺がボソボソしてるけどそういうやつなのかな。
と思っていたら店主が現れて「どこから来たの?」「埼玉です」「これ麺がボソボソしてると思うけど、そういうやつだから」と説明される。そういうやつなんだ。それなら納得。
そこかしこに積まれる雪。雪というのは積んだ人間の感情が想像できる。珍しい雪にはしゃぐ人間はだいたい娯楽的な積み方をするが、マジの雪国ではみんな実務的に淡々と積む。
「ゆみちゃん」って誰だよ。
と思ってたら説明があった。県知事に請願を出した小学生が道路の名前になったらしい。
ひとまず無難に弘前城を見にいく。時代劇だとこういう門で敵を阻むけど、この左側の土塁に普通に登れてしまうのではないだろうか?
と思ったら注意書きがあった。さっきから疑問への対応力が高いな、弘前。
弘前城は日本に12ヶ所ある現存天守(復元ではなく江戸時代からある建物)のひとつだが、石垣の修理のため本来の位置から70mずらしているらしい。現実の建物でそんなジオラマ模型みたいなことできるんだ。
天気のため岩木山がよく見えないが、裾野だけであのへんにどでかい山があることが推測できる。あえて全容を見せない美学。
弘前は戦前から残っている建物がそこかしこにあり、町並みにレトロな雰囲気があるのが魅力的だ。
蔵になにか別の建物を被せたのだろうか?
こちらは旧陸軍第八師団の長官舎だったが、現在はスターバックスとなって米国資本の統治下になっている。これが敗戦か。
このあたりで別の編集さんから「あの原稿はどんな感じですか」「このデザインを確認してください」といった連絡が来はじめる。そのへんのカフェに入ってアップルパイを頼んで「こんな感じです」と書いて送ってアップルパイを食べる。うめえ。
「落雪注意」という看板がそこかしこにある。あまり見ない文字列なので脳が一瞬「落雷注意」に誤認する。
街を歩いていて驚いたのは、見かけた公衆トイレがすべて暖房完備ということだ。東北の冬というと水道凍結防止のため公衆トイレを閉鎖してしまうところも多いのだが、こちらはトイレを温めるというパワープレイで解決しているようである。僕の故郷(福島)とはだいぶ寒冷地としての格が違う。
太宰治が高校時代に下宿していた家を見学する。実際に使っていた部屋と机も公開されて、しかも触っていいとのこと。僕も作家として太宰の人気にあやかりたい、とPCを広げて「走れメロス」の二次創作小説をちょっと書く。
鴨居に謎の数式が残されている。「下宿に残した謎の数式」ってフェルマーだったら深い意味がありそうだけど太宰治だからなあ。わざわざ解説音声で「太宰は数学が大の苦手だった」と説明されていた。
ちなみにここは太宰治が1回目の自殺を図った部屋でもあるという。「1回目の自殺」ってそんな「初めての彼女」みたいなノリで言うことあるんだ。原因については「小作争議を扱った小説が活字になるのが怖くなった」説と「数学の試験が嫌だった」説があるらしい。
ヤング太宰の写真もたくさん展示されている。太宰治の写真って3葉しかないと思ってた。
このあたりで帰りの時間になる。せっかくフリーパスなのに往路と同じはやぶさで帰るのは芸がないな、と秋田まで移動してこまちで帰る。充実した1日であった。
このあと新幹線で3時間仕事した。
2月22日 木
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