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21グラムの魂はどこにあるか ◆ 水曜日の湯葉148

「魂の重さは21グラム」という話をよく聞く。100年前の科学者が「人間が死ぬと体重が平均21グラム減る」ということを報告し、それが「魂の重さだ」として定着したためらしい。

現代科学では人間に魂は存在せず、この重量変化は遺体の水分蒸発などで説明できる。それでも未だに「魂の重さは21グラム」と言われ続けているのは、ひとえにキャッチコピーとしての出来がいいからだろう。「魂」という神秘的でとらえどころのないものに「21グラム」というひどく実務的な重量を結びつける、『月と六ペンス』などに通じるセンスだ。

21グラムの揮発性成分

ということで今日は「魂は21グラム」を事実と認め、その上で「どこにあるのか」「どんな形なのか」そして「なぜ死ぬと消えるのか」といった点を考察していきたい。

直感的に「魂」と言われると脳か心臓に宿っていそうだが、21グラムというのは結構重い。もし魂が水と同じ比重ならば(ほとんどの臓器はそうである)直径3.4cmの球体に相当する。そんなものが1個の臓器に張り付いているとすれば、解剖学者がさっさと見つけてしまうだろう。

魂がより比重の高い物質という可能性もある(黄金の魂という言葉もある)が、それほど重ければレントゲンに写るはずだし、死後にスッと消えてしまうのも不自然だ。

つまり、21グラムの魂はまとまった臓器の形で存在しているのではなく、血液やリンパ液のように体のあちこちに分散していると考えられる。さらに、死後すぐに消滅してしまうことから、水よりも蒸発しやすい物質であることが推測される。

蒸発しやすい物質と言えばアルコール(エタノール)があげられる。手に噴射した消毒用アルコールが体温ですぐに蒸発することは皆さんもご存知であろう。魂がアルコールであるとすれば、「酔っ払う」という状態が「魂が薄まる」として説明できるので都合が良い。ちなみにワンカップ大関に含まれるアルコール量がほぼ21グラムである。

ただアルコールは水溶性がきわめて高いため、体内になんらかの形で格納されているアルコールが、死後すぐに消滅するとは考えにくい。

では、生者はなぜ魂を繋ぎ止め、死者はなぜ魂を手放すのか? 分かりやすいのは筋力の消失である。人が死ぬとまず筋肉が弛緩し、数時間後に死後硬直がはじまり、それが1日から数日続いて緩解する。今回の場合、魂の消失はごく短時間で(水分蒸発よりも短い時間で)起きていると考えられるため、最初の筋弛緩が魂の消滅に関与していることになる。つまり、魂は軽い圧力で液化する気体であり、筋力で液化した状態で全身に分散していると考えられる。

以上のことから、我々のよく知る物質でいちばん魂に近い性質を持っているのは、ライターオイルに使われるブタンガスである。常温では気体だが2気圧で液化する。

魂の燃える炎



10月2日 水

『ぬのさんぽ』連載が1ヶ月過ぎ、そろそろ精神的余裕が出てきたので、各出版社から送られてくる小説を消化する。

僕は「読もう」と思った瞬間に本を買う派なので、いわゆる積読がほぼないのだが、それとは別に各出版社が本を送ってくることがあり、これは僕のタイミングとは無関係に来るので、ビニールで包まれたまま本棚に入っている。個人的に包読つつんどくと呼んでおり、余裕ができたときに少しずつ読む。この消化速度が精神的余裕のバロメーターになっている。

今日は森博嗣の『フラッタ・リンツ・ライフ』。スカイ・クロラシリーズの4冊目。映画版では名前だけ登場するクリタ・ジンロウが主人公。自分は小説家デビュー時に「森博嗣の影響を感じる」と読んでないのに言われたせいで森博嗣に対する抵抗感があったが、『スカイ・クロラ』シリーズはかなり肌に合う。登場人物の純度が高く、その純度に似合う物語になっているため。

シリーズ各巻で主人公が変わるが、みんな戦闘機のパイロットである。戦闘スタイルや生き方に少しばかりの個性があるが、みんな飛行機のことしか好きじゃない。そのせいで自動車に乗るときは自動車という概念やたら文句をたれる。ピッチ方向の舵がないだとか、専用の道があるのにハンドル操作がいるのが不合理だとか。実際に助手席にいたらクソうるせえと思うが、紙面越しに見る分にはすごく良い具合の純度だ。

ある種の人間が強さに憧れるように、ある種の人間は精神の純度に憧れるところがある。そういう人は昔だったら出家して仏門に入っただろう。今だったら大学院の博士課程とかに行く。結局そうしたところで純度は得られないが、ここでは「キルドレ」という存在がそのフィクション的な純度を可能にしてくれる。そういうところが良い。


10月3日 木

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