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ロストバゲージ

 ヴェネツィアを発つその日の朝に空港から連絡があった。荷物が見つかったらしい。

 ここで豆知識だが、ロストバゲージはサービスが良い航空会社ならば滞在ホテルまで届けてくれる。
 しかしよく考えてみて欲しい。
 一緒に移動したはずの荷物をなくすような航空会社が、持ち主がいないのにホテルまでまともに届けられれるものだろうか。
 もちろん原因が私の場合もある。
 具体的には荷物のタグだ。以前旅行した時の古いタグを付けたまま新しい物を付けると、仕分けの時に古い方を読み取ってしまう場合があるらしい。そう言われると自信がない。何しろ普段から面倒くさがりなので、以前のタグをきちんと外していると断言できない。
 今回使った航空会社はエールフランスだ。アタック25で有名なあの航空会社だ。何となくお洒落な感じがするし、高級なイメージもあるので、私が悪いような気がしてくる。ちなみになくなったのは私の荷物だけだ。百人にエールフランスと私のどちらが信用できるかと問えば、全員エールフランスと答えるだろう。私だって自分が信じられない。
 自業自得の可能性がある以上、強い態度に出られない。
 これまでも面倒をかけこの先も面倒をかけるNにも気を遣う。
「ごめん、途中で空港に寄っていいかな」

 電車の時間やバスの時間、手続きにかかる時間を計算し、朝のうちはヴェネツィア市内を観光することにした。
 この三日で私たちはすっかりヴェネツィアのファンになっていた。
 まず何よりもご飯がおいしい。
 バンズパンに挟んだサンドイッチを、客に渡す直前に専用の機械で押しつぶしながらカリッと焼くパニーニ。うますぎて毎日食べた。
 それからリゾット。ヴェネツィアのリゾットは魚介の味が染みこんで、寄せ鍋の〆の雑炊そのものだった。
 Nにはドリンクを奢った。初日に下着の買い物も手伝ってもらったし、N様々である。この後も空港職員に色々やりとりをしてもらわなければならないし、大切にしないとバチが当たる。
 水上バスの乗り方も慣れて今や自由自在に使えた。水上バスの安さに慣れると、初日のあの水上タクシーの値段はやばかった。日本円にして一万円は取られた。大した距離ではなかったのだが。今にしてみると歩いても行ける距離だった。
 そうして最後までヴェネツィアを堪能し、空港に向かった。
 ヴェネツィアの空港はAeroporto Di Venezia=Tesseraと言う。通称はマルコポーロ空港だ。ヴェネツィアなんちゃら空港なんて言っていた三日前が懐かしい。
 しかし初日のあの二時間のバスはなんだったんだろうな?
 眠かったのでよく覚えていないが、確かに出発した空港もヴェネツィアなんちゃら空港と書いてあったんだが。
 窓口に向かう。
 角を曲がる。
 そこに一面に広がっていたのは荷物の山だった。
 人がたくさん居た。
「ロストバゲージ!」
 係の人が叫んでいた。

 こんなになくしてたのかよ!
 私、悪くなかったんじゃん!
 Nに奢ったドリンク代寄越せ!

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