立ち上げメンバーが語る、三菱地所が挑む産後ケア事業の背景と展望
今回は、産後ケアサービス「YUARITO(ユアリト)」の立ち上げメンバーにインタビューしました。YUARITOは、三菱地所の「新事業提案制度」を経て、社員3名を中心に創られた事業です。
メンバーが語る産後のリアルなエピソードと共に、YUARITOがどのようにして誕生し、どんな未来を見据えているのかを深掘りしていきます。
産後に苦しんだ経験が、新規事業の種になる
── 産後ケア事業を志した背景を教えてください。
島田:
メンバー三人の産後の実体験を踏まえて、産後ケアの事業化を目指しました。全員が産後に悩み、苦労した経験を持っていたからです。
我が家の場合は、2021年に念願の第一子が誕生しました。子どもが生まれてからは楽しい生活が待っていると信じていたのですが、イメージとは大きなギャップが。想像以上に、産後の現実は大変なものだったのです。
幸いにも、妻の実家が近く、義両親から手厚いサポートを受けることができました。それでも、睡眠不足や心身の疲労で弱々しくなっていく妻の姿を見て、産後の厳しさを初めて実感しました。
「他の家庭も同じように苦労しているのではないか?」と思い、インターネットで調べてみると、韓国や台湾、中国では産後ケアサービスが一般的であることが分かりました。日本にはなぜその文化がないのだろうと疑問に感じましたね。
そこで、事業として産後ケアサービスに取り組みたいと思い、新事業提案制度への応募を検討し、荒川に声をかけました。
荒川:
島田から日本に産後ケアサービスが全然浸透していない現状を聞きました。私も島田と同じ年に第一子が誕生し、育児休業を取得しましたが、産院で育児を教わった妻と、教わっていない自分の間で育児スキルに大きなギャップがありました。独学では不十分で、妻に頼ることが多く、かえってストレスを与えてしまったのです。
助産師さんなどのプロに相談できれば解決できた問題も多く、そういう場所が民間でもあれば素晴らしいと感じました。
元々、不動産を通じて困っている人をサポートしたり、頑張っている人を応援したりしたいと考え、この会社に入社した背景があります。子どもが生まれてからは、「この子たちのために世界を良くしたい」という思いが強くなったため、その第一歩として、産後ケア事業に飛び込むことを決めました。
まずは島田と私で取り組みをスタートさせ、内田が育児休業から戻ったタイミングで声をかけました。女性の視点を取り入れたいと考えたからです。
内田:
復職してすぐに島田からオファーがありました。当時は子どもが保育園に通い始めたばかりで、私は時短勤務中。業務を必死にキャッチアップしている状況で、「自分に新しい取り組みができるだろうか」と不安な気持ちにもなりました。しかし、自分自身が本当につらい産後を過ごしたので、過去の自分を救う思いで、このサービスの立ち上げに携わろうと考えました。
私はお産が進まず緊急帝王切開になり、コロナ禍で病院の人手が足りなかったこともあってか、充分なケアを受けることができませんでした。産後も、寝るのが苦手な子どもだったため、朝方まで抱っこする日々が続き、痛みと睡眠不足に耐えながらの育児でした。だからこそ、同じように苦しんでいるご家族をサポートしたいと強く思っています。
事業推進で見えた新たな発見と社会的意義
── 事業を推進していく中で、新たに得た気付きはありましたか?
荒川:
取り組んでいく中で、この事業への反対者がいないことに気付きました。YUARITOについて発信すればするほど、「うちとも連携できませんか?」と仲間が増えていくのです。最初は自分たちの想いだけでスタートした事業だったけれど、今では仲間となってくれた方々の想いも乗せて、産後ケアサービスの文化を当たり前にしたいと考えるようになりました。
島田:
荒川の言うように、このサービスを進めていく上で、色々な企業や病院などから毎日のように連絡をいただいています。これまで可視化されていなかっただけで、世の中にはこのサービスが必要だと感じている方がたくさんいると感じます。
文化の浸透までは時間はかかるかもしれないけれど、年単位の長期視点で見ていければ、日本の産後の文化は変わっていくと信じています。
内田:
なぜ、社会的意義がある産後ケアサービスが日本では根付いていないのかを、自身が事業者として取り組んだことで理解しました。産後の家庭に求められるものを提供しようとすると、安全面の担保のために人員の確保や医療機関との連携が求められます。コストとのバランスの調整が難しいために、事業として広まっていない現実があったのです。
そのため、私たちがビジネスモデルを確立し、持続可能な事業として成立させ、産後ケアサービスを広めていく役割を担いたいです。
当事者としての切実な思いを胸に、本格稼働を迎える
── もし、産後にYUARITOがあったら、活用していたと思いますか?
内田:
絶対に使っていたと思います。私が出産した当時はコロナ禍ということもあって宿泊型の産後ケアサービスの提供が限定的だったのですが、「眠れるのであれば、いくらでもお金を払いたい」と思うくらい、ボロボロの状態でした。まずは休養をとることを第一の目的に、YUARITOを利用していたに違いありません。
また、助産師さんなどの専門家と話ができることの価値を、この事業を通して知ることができました。初めて助産師さんとじっくり話せる機会を持ち、自分の出産や産後について打ち明けたことで、ようやく気持ちの整理がついたのです。「プロの目線で、寄り添って話を聞いてくれる存在」のありがたさを実感した瞬間でした。
今では子どもも大きくなり、一生懸命ことばを話したり、歌をうたって聞かせてくれます。心から愛おしく思う、かけがえのない存在です。それでも、新生児の頃の子どもの写真を見ると、「可愛い」よりも、当時のつらかった気持ちが蘇ってくるんです。
もし、産後にしっかりと睡眠が取れて、正常の精神状態だったなら。助産師さんと会話できて、自分の気持ちの整理がついていたなら。新生児の我が子を「可愛い」と感じられたのではないかと思うと、今でも涙が溢れてきます。
島田:
我が家の場合は、産後ケア施設があったとしても、妻の実家に里帰りするという形が第一の選択肢となると思います。しかし、家族のサポートがあったとしても、眠れなかったり、乳腺炎に悩んだりして、妻の心と体のダメージが大きかったのは事実です。そんなときに、産後ケア施設を駆け込み寺のような形で使えたらと思います。
何泊か利用して、子どもを預けて睡眠をしっかりとる。心と体をリフレッシュする。そして、また子育てに前向きに取り組むということができればと考えます。
荒川:
私は昨年末に第二子が生まれたのですが、第一子、第二子どちらのタイミングでも利用していたと思います。第一子の頃は妻の実家が近いこともあって産後ケア施設を利用していなかったのですが、それでも大人の手が足りないことを痛感しました。
そこで、第二子に関しては、妊娠が分かったタイミングで産後ケア施設を利用しようと決めて、実際に利用しました。サービスを受けることで、家庭内のピリピリとした雰囲気から一転して安心した空気が生まれましたし、預かってもらうことでしっかりと眠れるようになりました。非常に意義の高いサービスだと自らの経験からも感じています。
── いよいよ本格的にサービス提供が開始となります。現在のお気持ちや意気込みを最後に聞かせてください。
島田:
三菱地所は街づくりをする会社ですが、お子様の誕生に対してサービスを提供することも、街づくりにおける重要な付加価値だと考えます。産後ケアの文化を根付かせるために、まずはこの事業を私たちの手で軌道に乗せていきたいです。
荒川:
産後ケアサービスは絶対に日本に浸透してほしいサービスです。不動産事業を展開する三菱地所が取り組むことで、長年積み上げてきた空間作りの経験も活かしながら、社会問題である少子化の解決にも寄与できたらと思います。
内田:
昨年の試験運用では「人生が変わった」とおっしゃる利用者の方もいらっしゃって、自信を持って提供できるサービスであると実感しています。これまでずっと、家庭の中に閉じ込められてきた課題を解決する一つの選択肢として世の中に発信し、産後のご家族の生活をより幸せで、持続可能なものに変えていきたいです。
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(編集協力:早坂 みさと)