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お久しぶり《勇樹》さん。実は漫画、特撮、アニメ好き。意外に男性は自分の趣味を隠したがるみたい。泣いた[みなしごハッチ♡フランダースの犬]【前編】〈カフェ29勇樹2前〉
カランカラーン。
お店のドアが開いた。今日もパラパラとお客さんがドアを開けてくれた。お客さんの数はポツポツが似合うカフェ。お客さんそれぞれが居心地のいい空間になって貰えたらそれでいい。
私も、気ままに店の中を見渡したり、お客さんと話したり出来れば気ままで居たいから。
「あら、いらっしゃいませ。ちょっとお久しぶりですね」
ドアを開けて入って来たのは、勇樹さん。あの名字も名前も更には奥さんも同じ〈ゆうき〉さんの結城勇樹さん。気候も暖かくなって来たから服装はジーンズにオレンジ色がメインのチェック柄のダウンシャツ。さり気なく着こなしている。
「こんにちは、ママ。今日は休みなんですよ」
なんとなく客層で平日と休日の雰囲気はわかるけれど、ついつい曜日を忘れてしまう。一番は私が気まぐれで店を開けるせいもあるのだろうけど、考えてみたら何だかんだと休んではいない。ただ、営業時間はその日その日の気分だけど。
「そのシャツ素敵ね。勇樹さんってオレンジ色が好きなの?。確かコーヒーカップも橙色にしたわよね」
私がさり気なく言うと
「さすがママ。覚えていてくれたんだ。そうなんですよ。意外に暖色系が好きでね」
勇樹さんはそう言いながら、またカウンターの左側の椅子に座った。男性のお客さんって何故か一人で来て他のお客さんが居ないとカウンターの左側に座る。
「もちろん覚えてますよ」
「嬉しいですね。覚えていて貰えたなんて」
「そうですか?」
「前にも言ったと思いますけど、私なんて奥さんからは殆ど圏外扱いですからね、ほっとかれるのが当たり前なんですよ。気にして貰ったり覚えていて貰ったりすると嬉しいですよ」
そう言って微笑む勇樹さん。
「あら。私も嬉しいですよ。こうして来て貰えて」
私も微笑むと
「そうなんですか?」
そう聞いて来た。
「嬉しいですよ。だって、私はお客さんの居る場所や詳しい事はわからないんです。逢いたくても私からは逢いに行けない。ただひたすら待つばかり。だから本当に嬉しいですよ」
私もそう言って更に微笑んだ。
「へぇ。なるほど。そっかぁ、私達は行きたい店や逢いたいお店の人がいれば逢いに行けばいい。だけど、お店の人は連絡先がわからなければ待つ事しか出来ないのかぁ」
そう言って勇樹さんはちょっと考えていた。
「そうなんだ。考えても見なかった。なるほど。そうなんですね」
何だか納得したようなしないような顔をしている。
「そうなんですよ。だから嬉しいですよ」
私はいつものように、おしぼりとお水の入ったグラスを置いた。
「今日も橙色のカップにしますか?」
そう私が聞くと勇樹さんがカウンターの後ろの棚に目をやった。
「あれ。ママ、あれ何?」
ん?。と思って勇樹さんが見てる方を見ると、冬矢君と闇夢さんがサインを書いて並べて置いてあるコーヒーカップがあった。
「あぁ、これね。マイカップって言うの?。お客さんか気に入ったカップに自分のサインをして置いてあるのよ」
「へぇ。いいですね。私もそうしようかな」
勇樹さんは何だか嬉しそうに言った。
「もちろんいいですよ」
私が言うと
「うんうん。やっぱりオレンジ色、橙色かな。私なら」
そう言ってニコニコしている。
「どうしますか?。この橙色のコーヒーカップでもいいですか?持ち込んでも大丈夫ですよ」
そう言った瞬間、突然勇樹さんの顔色が変わった。
「いいんですか?、いいんですか?。持ち込んでもいいんですか?」
あまりにも豹変したかのような勇樹さんの嬉しそうな顔に、私がビックリした。
「えっ、えぇ。もちろん大丈夫ですよ」
私がそう言うか言わないうちに
「じゃ、持って来ます。本当にいいんですね。何でもいいんですね?」
「えっ。何でもって?」
何でもって改めて言われると構えてしまう。
「あのぅ。実は私」
そう言って勇樹さんは一瞬黙ってしまった。あんなに張り切っていたのに。
「あのぅ。趣味というか好きな物があって、実はあのぅ、私、漫画や戦隊シリーズ、アニメが好きなんですよ。奥さんや子供達には内緒なんですが好きなんですよ」
「あら」
私がそう言うと
「やっぱり変ですか?。やっぱり言わなきゃ良かった」
急に勇樹さんは黙ってしまった。
「いえいえ。私も好きなんですよ。アニメや戦隊シリーズ」
私がそう言うと
「えっ。本当ですか?。本当にママ好きなんですか?」
すると、生き返ったかのように勇樹さんの目が輝いた。
「そうなんですよ。好きなんですよ私も。古いのから新しいのまで。うふふ」
何かそんな話になったら懐かしくなった。遥か昔に見ていたり覚えている作品。
「みなしごハッチとかフランダースの犬とか。かなり古いから年齢バレますね。うふふ。知ってますか?」
すると更に勇樹さんの目が輝いた。
「もちろん知ってます。知ってますよ。確か私が生まれた頃のアニメですよね。でも知ってます。どこで見たのかは忘れましたが知ってますよ。私、泣きました。ハッチもフランダースの犬も」
「あら。泣いたんですか?。私もいつ見たのか忘れたんですけど、やたら感動して可哀想で泣きました。あれは今でもオープニングの曲を聞いただけで泣いちゃうんですよ」
本当に懐かしい。あんな頃もあったなぁなんてちょっと思い出していた。
「えっ、ママも泣いたんですか?。ママもそうだったんですか。マジで嬉しい。そんな話しが出来るなんて」
「うふふ。私も嬉しいですよ。懐かしい」
闇夢さんもそうだった。特に男性っていろいろ自分の趣味とか好きな物や好きな事を自分の中に隠している事が多いみたい。宝物だから?。恥ずかしいから?。意外と身近な人にほど隠したがるようだ。
でも、本当はやっぱり出来れば共有して一緒に楽しんだり語りたいんだろうけどね。
何か私まで、わくわくして来た。そして、ふと、どんなコーヒーカップを持ち込みたいのかと。
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