【物語】虹イルカ
学校が休みのたびに行く図書館。
ボクはそこで一冊の図鑑を見つけた。『まぼろしの動物図鑑』。表紙にはそう書いてあった。図鑑をひらくと、見たことのない動物たちが描かれていた。口から火を吐くドラゴン。背中に大きな翼をもつペガサス。永遠の時を生きるフェニックス。
どれも写真じゃないけれど、まるで本当にいるかのように描かれていた。絵のとなりには、特徴や性格が短くまとめられている。いままで会ったことのない動物たちに、ボクはワクワクしながらページをめくった。そして、ボクがひらいた次のページに描かれていたのは『虹イルカ』。
そこには、こう書かれていた。
虹イルカは、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色いる。単色では行動せず、七色で群れをなす。雨上がりに、海から空へとむかって半円を描いて泳ぐ。条件がそろったときにだけ、空にあらわれる。読み終えたあと、ボクはしばらく虹イルカの絵を見つめていた。
「虹イルカ……。見てみたいな」
図書館の窓にうつる空を見上げて、虹イルカを思い描いた。
次の土曜日は、雨だった。
ボクはお気に入りの傘をさして、図書館にむかった。そしてまた、『まぼろしの動物図鑑』をひらいた。今日は雨。もし雨があがれば、虹イルカに会えるかもしれない。そう思いながら、虹イルカのページを眺めた。
お昼過ぎに、雨はあがった。ボクは傘を握って、図書館を飛び出した。雲間に光がさしている。それだけでも、とても綺麗だった。空を見ながら海の近くまで歩いた。まだ少し雲が多い。しばらく海と空を見ていた。今日は会えないのかもしれない。図鑑に書かれた『条件がそろったときにだけ』という言葉を思い出して、そう思った。
あきらめて帰ろうと海に背をむけたとき、背中が温かくなった。呼び止められたように、ふり返る。正面には雲から出た太陽。まぶしくて、目の前が真っ白になる。徐々に景色が見えてくると、海の真ん中に大きな虹が架かっていた。海から空に架かる虹。そして、その虹は、言葉ではたりないほどの虹イルカの群れだった。
群れをなして空にのぼる虹イルカ。次々と次々と。綺麗な弧を描いて。そして、ボクは知った。虹イルカは、まぼろしではないことを。七色ではないことを。ボクの目にうつった虹イルカの色には、境目がなかった。
赤から橙へ、橙から黄色へ、グラデーションのように変わる色。ボクは、心の図鑑に新しい言葉を書き加えた。
虹イルカの色には、境目がなく赤から紫へと変わっていく。そして、虹イルカが見えるのは、雨上がりの海辺で、虹イルカに会いたい、そう思ったとき。
▽▽▽ 朗読 ▽▽▽
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