「見ている人はちゃんといるよ」
今の仕事場で泣いたのは、これが2度目だった。
新しい施設に入って2ヶ月が経ち、後輩もできた。仕事は介護職。前の施設と合わせるともうすぐ2年になる。
無資格未経験から始まって分からない事だらけだったけれど、その頃に比べると成長したなと思う。
…とはいえまだまだ仕事で学ぶべき事はたくさんあるし、怒られる事も多い。
不条理な事で怒られる事だって当然ある。
お昼ご飯の時間、ホールに集まって貰う為に利用者さん達を呼びに行き、見守りが必要な利用者さんと他愛もない話をしながらホールにゆっくりゆっくり歩いて行った。
その利用者さんは、ホールに着くとアルコール消毒をしてから席に着くのがルーティン。消毒液を手にかけて刷り込んでいたので見守っていると、突然手をパシンと叩かれた。
振り返ると、Oさんという職員が険しい顔で
「ボーッと立ってないで、利用者さん読んできたら?もうすぐご飯の時間なんだからさ!!」
いやまさに呼びかけに行って利用者さん捕まえてホールに連れてきたところですけど、あなたは何を見てそれを言ってるんですか?
…と言いたいのをグッと堪えて「…はい、行ってきます。」とまた利用者さんの部屋へ。
「やってるのに、なんでそういう事言われなきゃいけねんだよ」と小声で毒づく事も忘れない。
チラリとホールを振り返ると、今月入って来たばかりの後輩が利用者さんと楽しくおしゃべりしているようだった。
なんで利用者さんをホールに連れてきた私が怒られて、後輩は利用者さんと喋ってるのに怒られないんだろう。本当に理不尽だ。
その後、午後の入浴介助での外回りでもOさんに絞られ、ストレスからか左の脇腹がずっと痛くて堪らなかった。
夕方、利用者さんの部屋の掃除をしていると、Iさんに呼び止められた。
Iさんは見た目こそクマのようにイカついが、穏やかで優しい。
普段あまり話をした事がなかったので、なにか用事かな?と思い返事をすると…
Iさんが言った以外な言葉に涙!その理由とは
「俺さ、不思議なんだけど。」
Iさんは穏やかな口調だが、この前置きだけでドキッとしてしまう。
「ぴよさんさ、」
あああああもうダメだ、なんか私文句言われるんだ…
怒られたり何か文句を言われる時はだいたいこの前置きが出てくる。
さっきOさんに絞られたばかりなのに、Iさんにまでいわれたらホントもう、メンタル持たな…「なんで利用者と喋ってる後輩さんは怒られなくてぴよさんが怒られてるの??」「ふぇっ!?」
私は一瞬ポカンとしてしまった。
マスクで隠れているが、口が間抜けな状態で開いている。
「えっ、えっ…!
…なんでしょうね、きっと私が『そういうの言いやすい顔』してるからじゃないですかね笑
ほら、私ってそんな顔のタイプじゃないですかぁー」
一瞬で泣きそうになったのを堪えて、おどけながら自分の顔を指さして、わざと笑う。
私は大人しそうで幸薄そうな、「The日本人」って顔をしている。
生まれも昭和。イマドキのタイプとかけ離れた、古風な顔立ち。
加えて、性格も大人しい。というか、自分の意見を言うのが苦手でメンタルが弱い。
そのせいか、昔から八つ当たりの対象にはよくされてきた。
メンタル強めな人が一緒にいると、その人に言ってもどうせ言い返されるだけだからと私の方にとばっちりが来る。
いつもそうだ。
なのに、なんで。
なんでそんな事言ってくれるの?
なんで、この人はわかってるの??
「そんな事ないよ、ぴよさんはすごく優しい顔をしてる。
仕事だっていつも一生懸命やってくれてるし、頑張ってるじゃん!」
それからIさんは「俺、すげー感心したんだよ!」と、見守り入浴の時に私が時間が掛かる利用者さんを先に入れた事を
「上手く回るように考えてくれてる、って思って、すげーな、って。他の人そこまでやってくんないよ?」
「ちょ、ま、 …えっ、そんなところまで見てくれてるの??」
「見てるよ。ちゃんと伝わってるよ。利用者って結構、見てないようで見てるんだよ?」
その言葉で、もう限界だった。
「……っっ!」
涙が溢れて来て、思わずIさんに背を向けて涙を拭いたけれど、嗚咽する声が震えた。
「俺もさ、ストレス溜め込んで我慢して我慢して、限界が来てこうなっちゃったから、ぴよさんも我慢しすぎちゃダメだよ。
ぴよさんが頑張ってるの、俺もだけど見てる人はいるから。頑張って!負けんなよ!!」
「ぁりがとぅ……」
泣きながら震える声でそう返すのが精一杯だったけれど、今日怒られまくった事が全部チャラになるくらい、Iさんからものすごくパワーを貰えた。
「努力は裏切らない」と言う人もいれば、「努力は裏切る」と言う人もいる。
私の努力が足りない事もまだまだ沢山あって、だから怒られたりもするけど、頑張っていれば誰かがちゃんと見てくれて、認めてくれる。味方になってくれる。
だから大丈夫。
私はきっと、まだやれる。
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