リメンバー アンド リメンバー
〜夜の読み物 《夏 2022.8.5》〜
ラン ラララン
ラン ランラー
ラン ラララン
ラン ランラー
一歩踏み出すたびに揺れる、お気に入りの白いレースのスカート。
ラン ラララン
ラン ランラー
街灯に照らされて、影が踊る。
ラン ラララン
ラン ランラー
駅前の商店街を抜け、大きな公園に差し掛かると、
車通りも人通りも一気に減る。
イヤホンを外して、揺れるスカートの裾を眺めながら口ずさむ。
ラン ラララン
ラン ランラー
今日の景色も言葉も表情も、一晩眠れば姿を変えて、二晩眠れば忘れてしまう。
日々のあれこれに忙殺されてしまう。
ラン ラララン
ラン ランラー
虫の声が、留まり続ける熱が、私の夜を邪魔する。
高い高いマンションのせいで月は見えないし、なんだかんだで明るい街のせいで、そこにあるはずの星も見えない。時々通る車のライトの眩しいこと。
昼間は誰かのために私を使っている。
頭も身体も誰かのために働かせている。
夜くらい私に私を返してよ。
邪魔しないで、好きにさせてよ。
ラン ラララン
ラン ランラー
みんな知ってること
みんな知らないこと
公式、公認
非公式、非公認
私だけ、ふたりだけ、あなただけ
なんでもあるのに、なんにもない
なんにも残らないの。
あなたがいた。私がいた。それ以外。
どうして私は私で、どうしてあなたはあなたなの。
過去も未来もごちゃまぜのまま考える。
やっぱり今日もわからない。
子どものうちに答えのある問題を繰り返し解くことで、答えのない問題を解決するための力をつけることができる。
社会に出るということは、答えのない問題に挑むことだと、いろんな人が言っている。
答えのある問題は嫌というほど解いた。
会社に入って、答えのない問題にたくさん挑んできた。
それでもわからない。
あなたと私の最適解。
わからないまま、あなたを知っているわたしが、あなたを知らなかった私を追い越した。
街灯が滲んでも大丈夫。
今日は手を握りあったから、いつもより強くて、いつもより弱いだけ。
ラン ラララン
ラン ランラー ラン ラン
鞄をまさぐり鍵を出す。
鍵穴にさし込んでひねると、いつもの音がする。
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